エピソード25
side九条理央


 『理央くんへ

 この手紙を受け取ったということは、手術は成功したんだね。

 でも恐らく私は記憶を失っていると思います。

 本当は直接伝えたかったけど、きっとそれは叶わないと思うので、手紙を書くことにしました。

 まず、私のことが好きだと言ってくれたこと。

 あの時は戸惑って上手く言葉にすることができなかったけど、私のことを好きって言ってくれて、嬉しかったです。

 これは紛れもなく私の本心。

 私は最初、理央くんにどう接したら良いか分かりませんでした。

 私にだけ冷たく接している理央くんが正直苦手でした。

 理央くんにも理由があったのかもしれないけど、それでも少し悲しかったです。

 今思えば、得意でもない映画を一緒に観てくれたり、苦手な甘いものを頑張って食べたり、実は私のこと気遣ってくれてたんだね。

 少しずつ話すようになって、本当は私理央くんと仲良くなりたい、友達になりたいって思っていることに気が付いた。

 でも理央くんが告白してくれて、私の気持ちが分からなくなった。

 私は理央くんのことどう思っているのか。

 友達として、理央くんの傍に居たいのか。

 本当は気が付いているのに、その気持ちを認めようとしていなかったんじゃないか。

 私には未来がないかもしれないのに、これ以上大切な人が増えることが怖かった。

 もしかしたら、悩んでいる時点で答えは出てたのかもしれないね。

 私が辛い時に、私を一番支えてくれたのは理央くんでした。

 だから、私は自分の気持ちを正直に認めます。

 私も理央くんのことが好きです。

 こんな形で気持ちを伝えてごめんね。

 でも自分の気持ちに嘘はつきたくありませんでした。

 そしてもう一つ、こんなことを言うのは申し訳ないけど、理央くんにお願いがあります。

 もし私が記憶を失ったら、無理に私の記憶を取り戻そうとしないでください。

 私も今までのことを忘れてしまうのは嫌です。

 だからといって、無理矢理思い出しては意味がないと思うんです。

 理央くんにとっては辛いと思うけど、どうか、今まで通り、自然体で接してください。

 それから、理央くんがそろそろ真実を話してもいいと思った時、その時に理央くんの秘密も教えてください。

 何か隠していることがあるんでしょう?

 私は理央くんのことを信じているから、何があっても受け止める覚悟はできています。

 私もいつか、自分の口で理央くんに想いを伝えます。

 だから、その日まで待っていてください。

 長くなってごめんね。

 あと、最後に一つ。

 私の未来を変えてくれてありがとう。

 これからは理央くん自身の未来を描いてください。

 東雲唯』





 唯から受け取った手紙には、今まで唯が感じていたことや、俺へのお願いが書かれていた。

 そして、最後に唯が綴った言葉が頭から離れなかった。

 「未来を変えてくれてありがとう。俺自身の未来を描いて……か」

 もしかしたら、唯は手術の前に一度前世の記憶を取り戻したのかもしれない。

 俺が回帰者であることも薄々気付いていたのかもしれない。

 その答えは唯にしか分からない。

 だからまずは唯のお願い通り、俺なりに唯を支えていこう。

 いつか必ず、俺の口から全てを話そう。

 俺は唯だけの為に未来を変えようとした訳じゃない。

 俺が望む未来には、唯が居ないとダメなんだ。

 だから、唯が記憶を取り戻すのにどんなに時間がかかっても、たとえ記憶が戻らなくても、俺は大丈夫。

 その時は、また一緒に新しい思い出を作れば良いのだから。