エピソード24
side白銀有栖


 私は本来この場にいるべき存在ではなかった。

 でも不幸になる彼らを見ていたくなかったのだ。

 「待っててね……! 私が二人を助けるから!」

 だから私は決めた。

 "彼らの願い"を絶対に叶えてみせると。

 そうして、私は二人に全てをやり直すチャンスを与えた。

 あとは、彼らが自分の手で未来を変えるだけ。

 私はこれ以上二人の運命に関わることはできない。

 それでも、彼らの傍に居たい。

 そんな気持ちは消えなかった。

 「……少しくらいなら、手助けしてもいいんじゃない?」

 そう考えた私は、彼らが入学するであろう、宮園学園に「白銀有栖」として入学することを決めた。

 そして彼らの入学式当日。

 ステージからでも、二人の姿はハッキリと見えた。

 彼らの姿は、輝いて見えたから。

 私はただ彼らを見守るだけのつもりでいた。

 でも理央は異常に唯を避けていた。

 そうかと思えば急に優しく接したり。

 「理央らしくない!」

 そう思った私は、つい彼に声をかけてしまった。

 彼は驚いた顔をしていた。

 同時に私を疑うような顔も。

 それは当然の反応だ。

 私だって、教えた覚えのないない秘密を知っていたら驚く。

 でも、そうせずにはいられなかった。

 だからだろうか……。

 人の運命を勝手に操作してはいけなかったのに。

 そしてその行動には、常に代償が伴った。

 理央が回帰の代償に悪夢を見るようになったり、唯が幸せになるために、過去の記憶を失ったりしたように。

 そう。

 唯が病気にかかってしまったのだ。

 それも本来よりもかなり早い段階で。

 「病気にかかるのはもっと先のはずじゃ……!」

 こうなってしまったのは私のせいだ。

 私が彼らの運命に介入したから。

 私だって、理央や唯に偉そうなことを言える立場じゃなかったんだ。

 「……大丈夫。あの時とは状況が違う」

 それでも、私は自分がすべき事は全てしてきたつもりだ。

 だから最後は……

 「私の時間を削って彼女を救おう」

 これが私にできる唯一の償いだ。

 二人は私を神様だと言ってくれた。

 だけど、そんな事はない。

 私も二人と変わらないただの人間なのだから。

 ひとつ言うなら、彼らが過去に戻ってきたのだとしたら、私は未来からやってきたということ。

 それに……私にとっては彼らが神様のような存在だったから。

 「二人が無事でよかった」

 その後、手術は無事に成功して、病気によって命を落とす未来はなくなった。

 後はこれからの彼らの行動次第。

 そして私は彼らの元を去ることにした。

 最後に二人に会った時には、なぜか悲しそうな顔をしていた。

 「そんな表情しないで。あなたたちの願いはかなったんだから」

 消える前に挨拶を交わした私は、しっかりと彼らの顔を目に焼き付けた。

 ️




 時々、自分の選択が正しかったのか分からなくなる時がある。

 過去の二人は何度もすれ違い、お互い向き合うことを恐れて、最終的には誰も望んでいない結末を迎えてしまった。

 私はそんな姿を見ていられなかった。

 時間を巻き戻すなんて、そんな有り得ないことをするべきでないと頭では分かっていた。

 分かっていても、彼らを放っておくことはできなかった。

 でもそれは、ただの私の自己満足だったのかもしれない。

 回帰をしたことで、確かに唯や理央の行動は変わった。
 
 ただ……いくら抗おうとしても、やっぱり自然の摂理には逆らえないものだった。

 その時の私にとってはそれがベストな選択だったし、彼らにとっても、それがいい結果に繋がると信じていたのに。 

 私は自分の選択を後悔した。

 どうして時間を巻き戻すなんてことをしたのだろう。

 私のせいで彼らは二度も辛い思いをしなくてはならなくなった。

 けれども、二人は私が思っている以上に強い人たちだった。

 悩みながらも、苦しみながらも、彼らなりに未来を変えようとしていた。

 実際、彼らの気持ちの変化は大きかった。

 まるで、一滴の水が波紋を広げるように、小さな変化が少しずつ大きな変化へと導いたのだ。

 今でもこの選択が正しかったのか、もし違う方法を選んでいれば、何か変わったのだろうかと思うことがある。

 それでも、今まで過ごしてきた全ての時間が辛かった訳じゃないし、幸せなことだって沢山あった。

 これから先も、この選択を悔いる日が来るかもしれない。

 何度も何度も後悔し続けて、それでも、結局最後にはこの選択は間違ってなかったと思うんだろうな。

 だから過去に戻ったとしても、私はきっと同じ選択をするだろう。

 



 きっと私はまた彼らに会うことになる。

 だからその時まで……。

 いや、その日が来ても、いつまでも幸せでいてね。

 「……パパ。……ママ」