エピソード12
side東雲唯


 ピピピッ

 「……痛ッ」

 最近何故だか朝起きると頭痛がする。

 年末に近付いていることもあって疲れが溜まってるのかな……。

 「あ……準備しないと」

 こうしちゃいられない。

 今日は有栖さんと遊びに行く約束をしていた。

 数日前に突然有栖さんから遊びに誘われた。

 急なことで驚いたけれど、才色兼備でまさに学校のマドンナでもある有栖さんと遊びに行けるなんてこの上ない光栄なことだ。

 私も一度話してみたかったこともあり、今日は二人でショッピングをすることになったのだ。

 「行ってきます!」

 そう言って私は約束をしていたデパートへと向かった。




 
 どうやら有栖さんは先に到着しているようだった。

 「遅くなってすみません」

 「大丈夫よ。私も今来たところだし。それより突然誘っちゃってこっちこそごめんね? 驚いたでしょ」

 「はい……正直。でも私も有栖さんと話したいと思っていたので、誘っていただけて嬉しいです!」

 「もうっ! 可愛いんだからー」

 そんなことを言いながら有栖さんは私の頭を撫でてきた。

 「あ、ごめんね。じゃあ行こうか」

 私たちはまず、服屋へと向かった。

 「冬服が欲しかったのよね。このブランド私のお気に入りなの」

 「そうなんですか? 実は私もここの服大好きです!」

 「あら、そうなの? じゃあそうね……この服とか、どうかしら?」

 有栖さんが手に取ったのは淡いピンク色のニットだった。

 「わぁ……! 私の好みピッタリです!」

 凄い……。

 ここまで私の好みをピッタリ当てるとは。

 「じゃあ私も有栖さんに服を選んでもいいですか?」

 「えっ私? じゃあ、折角だしお願いしようかしら」

 それから私は有栖さんに似合いそうな服を探した。

 有栖さんはいかにも女性らしいというより、ミステリアスな雰囲気をまとっているから……。

 「あ! これとかどうですか?」

 そう言って見せたのは、シックな雰囲気のトップスだった。

 「凄い……。私の好みピッタリだわ。流石……お」

 「え? 何か言いましたか?」

 「ううん! 何でもない! ありがとう。気に入ったわ」

 何か言っていたような気がしたけど、気のせいかな?

 会計を済ませた後も、有栖さんはずっと嬉しそうにしていた。

 「そんなにその服が気に入ったんですか?」

 「もちろん。唯ちゃんが選んでくれた物だからね」

 何を理由にこんなに喜んでくれてるんだろうか。

 単純にデザインが気に入った。

 そういう訳ではなさそうだ。

 でも、そんなに喜んでもらえて私も嬉しいな。

 「私も、ありがとうございます」

 それから私たちは、雑貨店やアクセサリー店など、様々なお店を回った。

 どのお店でも思ったことだが、有栖さんは驚くほど私と好みが似ていた。

 そのこともあって、初めて会話するにも関わらず自然と会話が弾んだ。

 「じゃあ最後はあそこのカフェで甘いものでもどう?」

 私たちは、最後にカフェでスイーツを食べることにした。

 私はいちごが沢山乗ったパフェ、有栖さんは生クリームがたっぷりと乗っているパンケーキを頼んだ。

 「有栖さんも甘いものお好きなんですね」

 「そうなの! 昔からお母さんと一緒にスイーツを食べに行ってたからかな」

 「そうなんですか? じゃあ有栖さんの味覚はお母さんに似たんですね」

 「そうなのかも。でもお父さんは甘いもの苦手で、カフェに行こうって誘っても全然一緒に行ってくれなかったんだよね。ほら……駅前の。あそこのカフェ結構甘いからね」

 へぇ……。

 有栖さんのご両親か。

 きっと有栖さんは沢山愛されて育ったんだろうな。

 そんな様子が、今日話しただけでも伝わってくる。

 「ちなみに唯ちゃんのご両親の職業は何?」

 「私は母が看護師で、父が医師です」

 「やっぱり! 東雲って東雲病院の東雲よね? てことは唯ちゃんも跡を継ぐつもりなの?」

 「はい! その為に今勉強を頑張っています」

 有栖さんのご両親も気になるな。

 「有栖さんのご両親は?」

 「私はね、お母さんが医師でお父さんは心理士として病院で働いてるよ!」

 「有栖さんのご両親も医療関係者なんですか!」

 ここでも共通点があるとは。

 なんだか有栖さん楽しそうだ。

 もう少し有栖さんの話を聞きたくなった。

 「有栖さんのご両親ってどんな方なんですか?」

 「そうだなー。お母さんはすっごい美人! それに明るくて優しくて、私のことをとても愛してくれるの」

 「素敵な方ですね」

 「お父さんは、口下手で無愛想だけど、実は凄い私たちを気にかけてくれるの。それに反応が可愛いから、ついついからかいたくなっちゃうんだよね」

 両親の話をする有栖さんは、まるで無邪気な子供のようだった。

 「お母さんとお父さんのこと大好きなんですね」

 「うん! お母さんとお父さんは私の自慢の人なんだ! だから……」

 「だから……?」

 私は有栖さんが続ける言葉が気になった。

 「いや、何でもないわ」

 有栖さんの言葉を遮るように注文したスイーツが運ばれてきた。

 もう少し話を聞きたかったのに。

 残念。

 「んー美味しい! やっぱ甘いものは最高ね!」

 「そうですね!」

 それから私たちは夢中になってスイーツを食べた。

 「ご馳走様でした。このあとは何も予定はないし、駅までだけど送るよ」

 「いえ! そんな……」

 「いいのいいの。ちょっと聞きたいこともあるし」

 「じゃあ……ありがとうございます」

 私は有栖さんのお言葉に甘えることにした。

 「それで、聞きたいことっていうのは何ですか?」

 「あぁ……」

 有栖さんはそこから口を閉ざし、しばらくしてから話し出した。

 「最近、理央くんと仲良いみたいね」

 「仲良い……ですかね?でも少なくとも前よりは仲良くなったと思います」

 それがどうしたんだろう。

 「……あ、いや聞きたいことはこんなことじゃなくて。その……最近体調とか、どうかしら?」

 「えっ……あ、元気……です?」

 朝起きると頭痛がすることはあるけど、それは特に気にしていなから、あながち間違いではないだろう。

 でもどうして突然体調を気にするのだろうか。

 「元気ならいいの! 季節の変わり目だし、体調に気を付けてほしいなって。私、唯ちゃんのこと気に入ったから、体調崩して苦しんじゃったら悲しいからさ」

 あぁ……。

 そういうことね。

 「ありがとうございます。有栖さんも気を付けてくださいね」

 「……えぇ」

 この後も有栖さんと話しているうちに、あっという間に駅に着いてしまった。

 「それじゃあ、名残惜しいけどここでお別れね。今日はありがとう! 楽しかったわ」

 「私も楽しかったです!」

 最後の言葉は気になったけれど、有栖さんとのショッピングは本当に楽しかった。

 「じゃあ、また学校でね」

 「はい!」

 そう言って私たちはそこで別れた。

 「……本当に、楽しかったわ」

 帰り際に有栖さんが何かを呟く声が聞こえたが、既に距離が離れていたため、しっかりと聞き取ることはできなかった。