Episode11
side九条理央
『なぁ……この手紙って』
『あ! これ?高校時代の友達! この間同窓会があったでしょ? その時のお礼の手紙かな?』
『……男、だよな』
俺だって分かってる。
君が明るくて友達思いなこと。
優しすぎること。
俺にない部分を全部もっている。
だからこそ俺は君を好きになったんだ。
『……何を心配してるかは分かってる。私が好きなのは理央くんだけだよ』
そう言って優しく抱きしめてくれる。
そう……。
分かってる。
分かってるんだよ。
でもこの優しさが、俺を余計に不安にさせるって唯は知っているか?
そんなことを考えるべきではなかった。
価値観が違いすぎると上手くいくはずがないって分かっていたのに……。
***
今日は唯との図書当番の日だった。
何回か一緒に当番をしてきたし、大分話すようになったからか、もう気まずい気持ちはほとんどなかった。
「ねぇ、突然だけど回帰って存在すると思う?」
係の仕事も終わりに近付いてきた頃、唯がふとそんなことを聞いてきた。
「えっ……。どうしたんだ急に」
「いや、今私が読んでる小説が回帰物だったから、存在したらどんな感じなのかなぁって思っただけ」
「あぁ、そういう事か。俺はてっきり……」
「ん? どうした?」
「いや、なんでもない」
突然のことだから驚いた。
まさか俺の秘密に気が付いたのかと思った。
「意外だな。東雲はそういう小説は読まないと思ってた」
「まぁ良く読む訳ではないけど、たまにはこういうジャンルもいいかなって」
「そうか。ちなみに東雲はどう思うんだ?」
「私? 私は……」
俺は何故か唯がどう答えるのか、不安でたまらなかった。
「やっぱりそういうのはおとぎ話だと思うな」
そうだよな。
俺だって回帰したとか言われたら信じられない。
「でも……もし存在するなら、神様からのプレゼントみたい」
「神様からのプレゼント……」
俺は唯らしくない考えに驚いた。
「ふふっ。私何言ってるんだろうね。でも本当に思うの。本来人生は一度っきり。またやり直す機会が与えられたのなら、今度は間違えないように……自分が幸せになれる道を探すんじゃないかって、そう思うの」
「でもまた同じことを繰り返してしまうかもしれない。未来を変えることはできないかもしれない。そしたら辛い経験を繰り返すだけじゃないか」
あまりにも純粋な答えで、つい意地悪なことを言ってしまう。
「確かに何もしなければ未来は変わらないと思う。でも、バタフライ効果ってあるでしょ? 小さなことでも、自分が行動に移せば、いつかは自分の願いが叶うんじゃないかな? これは回帰してもしなくても」
そうだ。
唯は元々こういう人だった。
唯の言葉は俺に力をくれる。
特別な言葉じゃないけど、温かい言葉。
ありきたりかもしれないけど、心のこもった優しい言葉。
そんな唯だからこそ俺は……。
「あ! なんか熱く語っちゃってごめんね。恥ずかしい……」
「いや、むしろ俺が答えを貰ったみたいでごめんな。ただ……唯って案外ロマンチストなんだな」
「いいでしょ! 別に! っていうより、今唯って……」
「あ……」
つい下の名前で呼んでしまった。
「わりぃ、やっぱ苗字の方がいいか?」
「ううん。下の名前で呼んで! その方が私も嬉しい!」
……ッ!!
ほんっと、唯って突然恥ずかしいことを言うよな。
こういうとこは昔から変わってないんだな。
「そうか、唯。あ……そういえばさっきの質問の答えだけど。俺もやっぱり回帰は存在しないと思うよ」
「そっか……。そうだよね! こういうのは物語だから面白いんだよね」
そうだ。
これでいいんだ。
いくら親しくなっても、秘密を共有する必要はない。
どんなに未来を変えたいと思っても、たとえ本当に回帰が"存在する"のだとしても。
唯の言った通りだ。
俺が行動しないと、また同じことを繰り返してしまう。
俺はきっと、自分が知らない未来になることを恐れていたんだな。
ただ……
「あの人の言う通りだったのは腑に落ちないな」
「図書室の鍵は俺が返しておくよ」
「ありがと! じゃあお願いしてもいい? また明日ね!」
「あぁ、また明日」
こうして自然に挨拶もできるようになってきた。
「あれ? 理央くん」
あ……。
有栖さん。
会いたくない人に限って、何故かよく会うんだよな。
でも有栖さんの言ってたことは正しかった訳だし、一応そのことを伝えることにした。
「さっき少し唯と話してきたんです。回帰って存在するのかって言うことを聞かれて」
「そう。それで、理央くんは何て答えたの?」
「回帰は存在しないと……」
有栖さんが神妙な面持ちでこちらを見ているのが分かる。
「でも唯はもし回帰が存在するなら、何もしなければ未来を変えることができないと、そう言っていました」
「やっぱり。唯ちゃんならそんな風に考えるって思ってたわ」
俺の時もそうだったが、この人は唯との関わったことがあるのか?
俺の知る限りではないはずなのに、何故かこの人は俺たちのことを知りすぎている。
「とにかく……俺もちゃんと向き合ってみることにします」
「ようやく受け入れ始めたのね。唯ちゃんのお陰ね」
唯のお陰……。
まぁある意味そうなのかもな。
でも有栖さんの言葉がきっかけでもあるから、この人には感謝しないと。
もしかしたら彼女なりに、俺たちのことを気にかけてくれているのかもしれない。
「あ! そう言えば今週末唯ちゃんと遊びに行くことになったの! 楽しんでくるわね」
……前言撤回。
やっぱりこの人は掴み所がない人だ。
side九条理央
『なぁ……この手紙って』
『あ! これ?高校時代の友達! この間同窓会があったでしょ? その時のお礼の手紙かな?』
『……男、だよな』
俺だって分かってる。
君が明るくて友達思いなこと。
優しすぎること。
俺にない部分を全部もっている。
だからこそ俺は君を好きになったんだ。
『……何を心配してるかは分かってる。私が好きなのは理央くんだけだよ』
そう言って優しく抱きしめてくれる。
そう……。
分かってる。
分かってるんだよ。
でもこの優しさが、俺を余計に不安にさせるって唯は知っているか?
そんなことを考えるべきではなかった。
価値観が違いすぎると上手くいくはずがないって分かっていたのに……。
***
今日は唯との図書当番の日だった。
何回か一緒に当番をしてきたし、大分話すようになったからか、もう気まずい気持ちはほとんどなかった。
「ねぇ、突然だけど回帰って存在すると思う?」
係の仕事も終わりに近付いてきた頃、唯がふとそんなことを聞いてきた。
「えっ……。どうしたんだ急に」
「いや、今私が読んでる小説が回帰物だったから、存在したらどんな感じなのかなぁって思っただけ」
「あぁ、そういう事か。俺はてっきり……」
「ん? どうした?」
「いや、なんでもない」
突然のことだから驚いた。
まさか俺の秘密に気が付いたのかと思った。
「意外だな。東雲はそういう小説は読まないと思ってた」
「まぁ良く読む訳ではないけど、たまにはこういうジャンルもいいかなって」
「そうか。ちなみに東雲はどう思うんだ?」
「私? 私は……」
俺は何故か唯がどう答えるのか、不安でたまらなかった。
「やっぱりそういうのはおとぎ話だと思うな」
そうだよな。
俺だって回帰したとか言われたら信じられない。
「でも……もし存在するなら、神様からのプレゼントみたい」
「神様からのプレゼント……」
俺は唯らしくない考えに驚いた。
「ふふっ。私何言ってるんだろうね。でも本当に思うの。本来人生は一度っきり。またやり直す機会が与えられたのなら、今度は間違えないように……自分が幸せになれる道を探すんじゃないかって、そう思うの」
「でもまた同じことを繰り返してしまうかもしれない。未来を変えることはできないかもしれない。そしたら辛い経験を繰り返すだけじゃないか」
あまりにも純粋な答えで、つい意地悪なことを言ってしまう。
「確かに何もしなければ未来は変わらないと思う。でも、バタフライ効果ってあるでしょ? 小さなことでも、自分が行動に移せば、いつかは自分の願いが叶うんじゃないかな? これは回帰してもしなくても」
そうだ。
唯は元々こういう人だった。
唯の言葉は俺に力をくれる。
特別な言葉じゃないけど、温かい言葉。
ありきたりかもしれないけど、心のこもった優しい言葉。
そんな唯だからこそ俺は……。
「あ! なんか熱く語っちゃってごめんね。恥ずかしい……」
「いや、むしろ俺が答えを貰ったみたいでごめんな。ただ……唯って案外ロマンチストなんだな」
「いいでしょ! 別に! っていうより、今唯って……」
「あ……」
つい下の名前で呼んでしまった。
「わりぃ、やっぱ苗字の方がいいか?」
「ううん。下の名前で呼んで! その方が私も嬉しい!」
……ッ!!
ほんっと、唯って突然恥ずかしいことを言うよな。
こういうとこは昔から変わってないんだな。
「そうか、唯。あ……そういえばさっきの質問の答えだけど。俺もやっぱり回帰は存在しないと思うよ」
「そっか……。そうだよね! こういうのは物語だから面白いんだよね」
そうだ。
これでいいんだ。
いくら親しくなっても、秘密を共有する必要はない。
どんなに未来を変えたいと思っても、たとえ本当に回帰が"存在する"のだとしても。
唯の言った通りだ。
俺が行動しないと、また同じことを繰り返してしまう。
俺はきっと、自分が知らない未来になることを恐れていたんだな。
ただ……
「あの人の言う通りだったのは腑に落ちないな」
「図書室の鍵は俺が返しておくよ」
「ありがと! じゃあお願いしてもいい? また明日ね!」
「あぁ、また明日」
こうして自然に挨拶もできるようになってきた。
「あれ? 理央くん」
あ……。
有栖さん。
会いたくない人に限って、何故かよく会うんだよな。
でも有栖さんの言ってたことは正しかった訳だし、一応そのことを伝えることにした。
「さっき少し唯と話してきたんです。回帰って存在するのかって言うことを聞かれて」
「そう。それで、理央くんは何て答えたの?」
「回帰は存在しないと……」
有栖さんが神妙な面持ちでこちらを見ているのが分かる。
「でも唯はもし回帰が存在するなら、何もしなければ未来を変えることができないと、そう言っていました」
「やっぱり。唯ちゃんならそんな風に考えるって思ってたわ」
俺の時もそうだったが、この人は唯との関わったことがあるのか?
俺の知る限りではないはずなのに、何故かこの人は俺たちのことを知りすぎている。
「とにかく……俺もちゃんと向き合ってみることにします」
「ようやく受け入れ始めたのね。唯ちゃんのお陰ね」
唯のお陰……。
まぁある意味そうなのかもな。
でも有栖さんの言葉がきっかけでもあるから、この人には感謝しないと。
もしかしたら彼女なりに、俺たちのことを気にかけてくれているのかもしれない。
「あ! そう言えば今週末唯ちゃんと遊びに行くことになったの! 楽しんでくるわね」
……前言撤回。
やっぱりこの人は掴み所がない人だ。