高校生活1日目の今日は、各々の自己紹介からはじまり、事務的なホームルームが続いた。今後の日程確認、委員決め、校内の案内。そして、明日から行われる宿泊研修の説明。

午前中のみの短縮授業が終わると、教室内では少人数のグループがいくつも生成されていく。
午後は、高校生活の基盤を作る貴重な時間だ。もちろん私とカンナにも、このあと大切な任務が待っている。

「準備完了。いつでも行けるよ」
「こっちもオッケーッ! 行くべっ!」

帰り支度を整えてカンナの席へ向かうと、親指を立てながら、なんとも勇ましい反応が返ってきた。

軽やかな足取りで3階分の階段を下り、まずは購買部へ立ち寄る。サンドイッチ2種類と5個入りのミニクロワッサン、カフェラテ2本を無事購入できたら次へ。

今日の任務は題して、私達の憩いの場所を見つけよう――だ!



限られた敷地の中で、自分達だけの場所を見つけるのはラクじゃない。そんなことは始めから覚悟していた。だからこそ、上級生が通常通りに過ごしている今日が、捜索にはうってつけだった。

中庭や屋上といった定番スポットは、やはり満員御礼。校舎裏はカップルが占拠中。目ぼしい場所を探りながら敷地内を一周した私達は、……結局、昇降口へ戻って来てしまった。

「しかたない……最終手段だよ、芙由」
「え、何それ?」
「とりあえず行くべ!」

自信満々な顔で言い放ったカンナが、その勢いのまま背を向けて走り出す。

一体どこへ向かう気なのか。こうなったら、ふわふわと波打つオリーブカラーのロングヘアを追うしかない。

「ねーねー、春先生ってイイよね」

本校舎と旧校舎を繋ぐ渡り廊下の途中で、吹き抜ける風を楽しむように、カンナがくるっとスカートで円を描く。
親しげな呼び方に、もう落ちたのか、と目を細めてしまったが、なんとか言葉は飲み込んだ。

「イイ、って何が?」
「委員をクジで決めたりさ、『人生には運も大事ですからね』って! もう、ひたすらカッコイイ!」

ただでさえ大きな瞳が、やたら眩しい。

「無難な委員だったから言えるんだよ。もし教科担当とか引いてたら、絶対恨んでたって」
「芙由は白紙だもんねー」

カンナが挑発的に笑うので、旧校舎の入り口に差しかかったタイミングで体を寄せ、進路を妨害する。

カンナが言った白紙とは、人数調整のために2枚だけ入っていた、“アタリ兼ハズレ”のジョーカーだ。何の委員にも属さない代わりに、欠席時の全代理を担う係ってやつ。
今日の2限目に行われた委員決めで、私はそれを見事引き当てた。

「いいよねカンナは。文化祭の実行委員って、期間限定じゃん」
「イライラしなーい! それよりホラ、穴場到着!」

なにかと未だに使われているらしく、古めかしくも小綺麗な校内。どこまで行くんだろう、と半ば不思議に思いながら登りきった階段の先の終着点。

――カンナの最終手段とは、旧校舎の屋上だった。

勿体ぶるようにカンナがゆっくりとドアを開けると、遠くで聞こえる喧騒とともに、温かな春風がフワッと通り過ぎる。

視界いっぱいに広がる青空。フウーッと大きく息を吐ける空間。私は、順風満帆な高校生活を思って心が弾んだ。


「ねぇ、何でカンナはこの場所知ってたの?」