翌朝。スマホのアラームが鳴ると、重い瞼をこすりながら最初にメールを確認した。念の為に手動で情報更新するが、新着はなし。
やはり報告は不要だったのだろうか。いや、一糸先生の性格を考えると、目を通すだけで返信はしない、というのがデフォルトの可能性もある。そもそも、見てくれているかも怪しい。
――――わからない。
せめてこれがSNSなら、既読マークが付くのに……。
悶々とした気持ちを抱えながら起き上がり、のそのそと身支度を始める。
休日だというのに制服に着替え、いつもの道をカンナと歩く。
「さて芙由さん、今の心境は?」
「……わかんない」
「だよね。萩原に会うってのに、清々しいです、とは言えないかー」
「あ、そっち?」
カンナの言葉で、一気に現実に引き戻された。
「そっち?って。芙由、しんどいなら無理しなくていいんだよ?」
しんどい事があるとすれば、目覚めた瞬間から今の今まで、一糸先生のことばかり考えていた自分の痛々しさだ。
「もし無理だと思ったら、悪いけど先に帰るね」
「がってんしょうチ! それがいいよ!」
久しぶりに聞くセリフに、ほっこりと心が和む。
大丈夫。不安どころか、他のことで悩む余裕すらある。きっと大丈夫――。
穏やかな雰囲気のまま体育館へ着くと、合同練習は既に開始されており、私達は真っ直ぐ2階へと登った。意外ではないが、体育館を囲うように造られているギャラリーの観客は、そのほとんどが女子だった。
「あっ、陽平達みっけ! あれだよね?」
「赤のユニフォームって言ってたし、たぶんあれだね」
チラホラ聞こえてくる歓声から、2人の注目っぷりがうかがえる。教室では見せない真剣な表情の陽平と要は、素直にカッコイイと思った。
……なのに、どうしても私は右へ左へと別の人を探してしまう。
ユニフォームの種類を見る限り、今日の参加は全部で6校。それでも楓レーダーが搭載されている私の目は、的確に彼を見つけ出す。
――――あ、いた。
栗色だった髪は以前よりトーンダウンしているが、彫りの深い猫目と、程よく筋肉がついた長い手足は、半年前と変わらない。
……いや、やっぱり違う。同じじゃない。また身長が伸びたのか、前よりもバスケ選手らしい体つきになった。
「陽平達ってバスケしてるとカッコイイね!」
「バスケしてないときは?」
「いやぁ……ふつう?」
オールコート2面の中央で男性が笛を鳴らすと、カラフルなユニフォームが各々に集まり、和気あいあいと休憩に入る。
真下へ来た赤い集団の中から陽平と要を見つけた時、2人もこちらに気づいたようで、お互いに静かに微笑んだ。
「カッコイイんだろうけど、意識したことなかったなー」
「カンナの場合は成弥くんのせいでハードル上がってんだよ」
話題は一貫していても、結局はまた、白いユニフォーム姿の楓を追ってしまう。
マネージャーらしき女の子に向けられた笑顔。黒のリストバンドがない左腕。全てを割り切ろうと決めたのに、些細な違いにまで胸が疼く。
「ウチの兄ちゃんは周りが言うほど――」
カンナの話から意識が逸れていくなかで、ふいに楓がこちらを向いた。
「うそ……」
「ん? どした?」
やはり報告は不要だったのだろうか。いや、一糸先生の性格を考えると、目を通すだけで返信はしない、というのがデフォルトの可能性もある。そもそも、見てくれているかも怪しい。
――――わからない。
せめてこれがSNSなら、既読マークが付くのに……。
悶々とした気持ちを抱えながら起き上がり、のそのそと身支度を始める。
休日だというのに制服に着替え、いつもの道をカンナと歩く。
「さて芙由さん、今の心境は?」
「……わかんない」
「だよね。萩原に会うってのに、清々しいです、とは言えないかー」
「あ、そっち?」
カンナの言葉で、一気に現実に引き戻された。
「そっち?って。芙由、しんどいなら無理しなくていいんだよ?」
しんどい事があるとすれば、目覚めた瞬間から今の今まで、一糸先生のことばかり考えていた自分の痛々しさだ。
「もし無理だと思ったら、悪いけど先に帰るね」
「がってんしょうチ! それがいいよ!」
久しぶりに聞くセリフに、ほっこりと心が和む。
大丈夫。不安どころか、他のことで悩む余裕すらある。きっと大丈夫――。
穏やかな雰囲気のまま体育館へ着くと、合同練習は既に開始されており、私達は真っ直ぐ2階へと登った。意外ではないが、体育館を囲うように造られているギャラリーの観客は、そのほとんどが女子だった。
「あっ、陽平達みっけ! あれだよね?」
「赤のユニフォームって言ってたし、たぶんあれだね」
チラホラ聞こえてくる歓声から、2人の注目っぷりがうかがえる。教室では見せない真剣な表情の陽平と要は、素直にカッコイイと思った。
……なのに、どうしても私は右へ左へと別の人を探してしまう。
ユニフォームの種類を見る限り、今日の参加は全部で6校。それでも楓レーダーが搭載されている私の目は、的確に彼を見つけ出す。
――――あ、いた。
栗色だった髪は以前よりトーンダウンしているが、彫りの深い猫目と、程よく筋肉がついた長い手足は、半年前と変わらない。
……いや、やっぱり違う。同じじゃない。また身長が伸びたのか、前よりもバスケ選手らしい体つきになった。
「陽平達ってバスケしてるとカッコイイね!」
「バスケしてないときは?」
「いやぁ……ふつう?」
オールコート2面の中央で男性が笛を鳴らすと、カラフルなユニフォームが各々に集まり、和気あいあいと休憩に入る。
真下へ来た赤い集団の中から陽平と要を見つけた時、2人もこちらに気づいたようで、お互いに静かに微笑んだ。
「カッコイイんだろうけど、意識したことなかったなー」
「カンナの場合は成弥くんのせいでハードル上がってんだよ」
話題は一貫していても、結局はまた、白いユニフォーム姿の楓を追ってしまう。
マネージャーらしき女の子に向けられた笑顔。黒のリストバンドがない左腕。全てを割り切ろうと決めたのに、些細な違いにまで胸が疼く。
「ウチの兄ちゃんは周りが言うほど――」
カンナの話から意識が逸れていくなかで、ふいに楓がこちらを向いた。
「うそ……」
「ん? どした?」