「昼休みはここで榎本さんと過ごしてるの?」
「そう」
「気持ちいいし、いい場所ね」
葉の香りを乗せた乾いた風。それに似た、穏やかな裏ボスの声。彼女は言葉通り、麗らかな表情で辺りを見回していた。
「……内緒で連れてきてるし、今後は進入禁止でよろしくね。ここはカンナのお兄ちゃんから譲り受けた場所でもあるから」
気に入ったと言わんばかりの裏ボスを、つい牽制してしまった。
分かっている、ここを占領していい権利なんて持っていない。でも、私の勝手で侵されるわけにもいかない。
この旧校舎の屋上は、私とカンナの憩いの場所。……ついでに、一糸先生が素に戻れる場所だから。
「で、2人で話したいことってなに?」
フェンスを背に腰を下ろすと、裏ボスも真正面に座り込む。コンクリートの上で迷わず正座する姿に、日頃の高慢さの裏側を見た気がした。
「単刀直入に訊かせて貰うけど、宿泊研修でタバコの件を揉み消したのは椎名さんよね」
「……なんの話?」
真っ直ぐに私を見据える黒々とした瞳。敵意むき出しな口調。
半年前の悪事を自ら蒸し返して、裏ボスは一体何が言いたいのだろうか。
「荷物検査が行われるはずだったのに、春先生はやらなかった。榎本さんの態度も、何も知らないみたいにいつもどおりだったし」
「…………」
「榎本さんの鞄からタバコを抜き取って、それでどうしたの? 検査がなかったのは何で? あなたが関わってないとは思えないんだけど」
表情も雰囲気も、裏ボスから放たれる全てが、私を『気に食わない』と訴えている。だからといって、こちらも臆するわけにはいかない。
――真犯人の私が目指したのは、なにもなかった、だ。
「ごめん、何の話かわかんない」
「わからないのはこっちよ!」
裏ボスは握り拳を膝に乗せ、声を荒げた。
「どう考えてもオカシイじゃない。私達の思惑は失敗してるのに、呼び出しも注意もされてない。……まさかと思うけど、私達を庇ってるつもり?」
どうやら裏ボスは、結構なポジティブ思考らしい。自分より底意地の悪い人間はいない、とでも思っているのだろうか。
「んー。私が本当のことを知ってて、先生にも言ってないとしたら、それは貸しを作りたかったから。かな」
眉をひそめる裏ボスに対し、口角を上げながら意地悪そうに笑ってみせる。
ズルくていい。嫌な印象を植え付ければ、良くも悪くも距離は保てるはず。
「最後までシラを切るのね?」
「私としては、逆に何を企んでたのか詳しく聞きたいくらいだよ?」
あくまでも善人ではないですよ、と念押しにイタイところを小突いておく。
互いに口を閉ざすと、放課後特有の賑やかな声が存在感を増した。
「一応言っておくけど、借りがあるとは思ってないから」
先に沈黙を破った裏ボスが、風に乱された黒髪をハラリと背後へ払う。
「……それより、陽平くん達の練習試合、ちゃんと来なさいよ」
――――は?
「何よその顔」
「え?」
なに?と言われても困る。傲慢な姿勢はそのままに、らしからぬ発言をされたら、混乱しない方がおかしい。
「え、普通なら来て欲しくない……よね」
「陽平くんが来て欲しいって言ってたでしょ! 私はイヤだけど!」
「そう」
「気持ちいいし、いい場所ね」
葉の香りを乗せた乾いた風。それに似た、穏やかな裏ボスの声。彼女は言葉通り、麗らかな表情で辺りを見回していた。
「……内緒で連れてきてるし、今後は進入禁止でよろしくね。ここはカンナのお兄ちゃんから譲り受けた場所でもあるから」
気に入ったと言わんばかりの裏ボスを、つい牽制してしまった。
分かっている、ここを占領していい権利なんて持っていない。でも、私の勝手で侵されるわけにもいかない。
この旧校舎の屋上は、私とカンナの憩いの場所。……ついでに、一糸先生が素に戻れる場所だから。
「で、2人で話したいことってなに?」
フェンスを背に腰を下ろすと、裏ボスも真正面に座り込む。コンクリートの上で迷わず正座する姿に、日頃の高慢さの裏側を見た気がした。
「単刀直入に訊かせて貰うけど、宿泊研修でタバコの件を揉み消したのは椎名さんよね」
「……なんの話?」
真っ直ぐに私を見据える黒々とした瞳。敵意むき出しな口調。
半年前の悪事を自ら蒸し返して、裏ボスは一体何が言いたいのだろうか。
「荷物検査が行われるはずだったのに、春先生はやらなかった。榎本さんの態度も、何も知らないみたいにいつもどおりだったし」
「…………」
「榎本さんの鞄からタバコを抜き取って、それでどうしたの? 検査がなかったのは何で? あなたが関わってないとは思えないんだけど」
表情も雰囲気も、裏ボスから放たれる全てが、私を『気に食わない』と訴えている。だからといって、こちらも臆するわけにはいかない。
――真犯人の私が目指したのは、なにもなかった、だ。
「ごめん、何の話かわかんない」
「わからないのはこっちよ!」
裏ボスは握り拳を膝に乗せ、声を荒げた。
「どう考えてもオカシイじゃない。私達の思惑は失敗してるのに、呼び出しも注意もされてない。……まさかと思うけど、私達を庇ってるつもり?」
どうやら裏ボスは、結構なポジティブ思考らしい。自分より底意地の悪い人間はいない、とでも思っているのだろうか。
「んー。私が本当のことを知ってて、先生にも言ってないとしたら、それは貸しを作りたかったから。かな」
眉をひそめる裏ボスに対し、口角を上げながら意地悪そうに笑ってみせる。
ズルくていい。嫌な印象を植え付ければ、良くも悪くも距離は保てるはず。
「最後までシラを切るのね?」
「私としては、逆に何を企んでたのか詳しく聞きたいくらいだよ?」
あくまでも善人ではないですよ、と念押しにイタイところを小突いておく。
互いに口を閉ざすと、放課後特有の賑やかな声が存在感を増した。
「一応言っておくけど、借りがあるとは思ってないから」
先に沈黙を破った裏ボスが、風に乱された黒髪をハラリと背後へ払う。
「……それより、陽平くん達の練習試合、ちゃんと来なさいよ」
――――は?
「何よその顔」
「え?」
なに?と言われても困る。傲慢な姿勢はそのままに、らしからぬ発言をされたら、混乱しない方がおかしい。
「え、普通なら来て欲しくない……よね」
「陽平くんが来て欲しいって言ってたでしょ! 私はイヤだけど!」