麗しい王子フェイスが微笑むと、推定1位が確信へと変わる。結局のところ、この(きら)やかさに勝てる男子生徒なんていない。

日頃からカンナが隣にいるので当たり前になっているが、すれ違う人々は、芸能人でも見ているかのように榎本兄妹を目で追う。
今だってそうだ。同じ制服を着て同じ方向へ歩いている学生ですら、わざわざ立ち止まり、私より頭一つ分高い位置へ視線を向ける。

「あっ、あの!」

ふいに背後から聞こえてきたのは、控えめで可愛らしい声だった。

「あのっ、榎本先輩の彼女さん……ですか」

振り向きざまに成弥くんと顔を見合わせ、彼女の悩ましげな瞳につられて、王子の反応をまたうかがう。

「…………」
「ちょっと成弥くん、早く否定しなよ」
「あー、いや、芙由が彼女とかウケるなぁって想像してた」

一応は口元を拳で隠しているが、頬も目尻も、成弥くんの表情筋全てが“楽しい”を描いていた。悪気がないのは分かっているけど、マイペースも大概にして欲しい。

「こいつは彼女じゃないよ」

――――でたよ、黒王子スマイル。

「そうなんですね! ありがとうございますっ!」

一礼した女の子は艶っぽい唇を吊り上げ、軽い足取りで私達の横を通り過ぎていく。

何が嬉しいのか。何が『ありがとうございます』なのか。その答えはなんとなく想像できるが、同情しか湧かない。

「成弥くんってさ、女の子と歩いてるときはいつもこんな?」
「あたりまえじゃん。男と歩いててもこんな」

ほらね。

この人は、常に自分が主役で、楽しければそれで良くて。テキトーな上に軽薄で。外見の良さを強みに、好き勝手振る舞って。おとぎ話でいえば当て馬キャラ、隣国のオレ様王子こそが真の成弥くんだ。

ため息と一緒に、冷ややかな視線を成弥くんへ送る。
当の本人はというと、学校へと続く道の先を真っ直ぐに見ていた。

人混みの隙間で、さきほどの女の子が友人2人と合流し、楽しそうにはしゃいでいる。私の身長でも見えているので、成弥くんの視界にも当然映っているはず……。

素顔を知らない人間からすれば、危険な香りが漂う絶対的な王子様。私から見たその人は、身勝手な自信家。
ただ、極稀にだが、それとは合致しない姿を垣間見ている気がする。

「てかさ、芙由は来年どうすんの? お前らのチャンスは1回だろ」
「またミスコンの話? 出るとしてもカンナでしょ」
「アイツは俺の妹だから上位確定。でも、芙由なら張り合えると思うけど」

成弥くんの自信ありげな顔は、どの言葉に対してのものだろうか。

「暫定のクイーンも卒業だし、お前らで1位争いとか楽しくない?」

無敗の王者だからこそ許される戯言(たわごと)だ。

私がカンナと張り合えるわけがないし、そもそも出る気もない。1位を獲るなんて、もっての外。

「ま、芙由はもう少し自信持てよ。俺の彼女って勘違いされる程度には美人なんだから」

成弥くんの人気はルックスが支えているのだと、つくづく思う。ここまでの自意識過剰っぷりは、もはや才能かもしれない。

「遅刻より告白イベントが多い人に言われてもね。半年でゼロの私が、どーやって自信持てばいいの」
「芙由の場合は、近づき難いオーラ出てるからだろ。お前を可愛いって言ってるやついるよ? 調子乗ったらうざいし、誰かは教えてやんねーけど」

睨み返すと、成弥くんが小さく舌を出す。