あの日、店先で泣き崩れている椎名芙由を、ガキの色恋だと邪険に扱った。だが全ての事情を知ってしまうと、あの時見た光景が一変する。
自分を繕っている部分が似てる?
――ありえない。
椎名芙由が気丈に振る舞っていたのは、自分以外の誰かのためだ。ラクだから、という理由で外面を繕っている人間とは全然違う。
『つらくても、大切な思い出なんだよ』
そう微笑んだ拍子に目尻から落ちた涙は、これまでのどんな涙よりも美しく見えた。あの絵を“綺麗な涙”だと表現できたのは、椎名芙由だからこそ、かもしれない。
「悪かった」
隣に並んだ椎名芙由をしかと見据え、その危うくも強い姿に敬意を払う。
弁明は得意ではないが、2つ3つと重ねていくと、ゆっくりと瞬いた彼女の瞳からまた涙が零れた。
――これは、他人が汚していいものではないし、汚されないように守るべきモノだ。
教職に就いて、1年と数ヵ月。目の前で絶えず零れ落ちていく涙を眺めながら、初めて、教師のような感情が自然と湧いた。
「今後はちょっとだけ、一糸先生を信用することにします」
そう言った椎名芙由が、目を伏せながら静かに笑う。
大人びた顔が少しだけ綻ぶと、少女らしい愛らしさが垣間見えた。
榎本は納得していたようだが、コイツは結局、“今まで話さなかった理由”を最後まで隠しきった。きっとその判断も誰か、おそらく榎本のためなんだろう。
椎名芙由は強い人間だ。
ただ、深い傷を負わせた教師達が見過ごしていたものに、自分は気づいた。表面からは見え難い彼女の良さを、せめて教師でいる間は大事にしてやりたい。
多少の面倒くささは、椎名芙由の将来への投資。コイツがこれからどう成長していくのか、少しばかり楽しみだ。
自分を繕っている部分が似てる?
――ありえない。
椎名芙由が気丈に振る舞っていたのは、自分以外の誰かのためだ。ラクだから、という理由で外面を繕っている人間とは全然違う。
『つらくても、大切な思い出なんだよ』
そう微笑んだ拍子に目尻から落ちた涙は、これまでのどんな涙よりも美しく見えた。あの絵を“綺麗な涙”だと表現できたのは、椎名芙由だからこそ、かもしれない。
「悪かった」
隣に並んだ椎名芙由をしかと見据え、その危うくも強い姿に敬意を払う。
弁明は得意ではないが、2つ3つと重ねていくと、ゆっくりと瞬いた彼女の瞳からまた涙が零れた。
――これは、他人が汚していいものではないし、汚されないように守るべきモノだ。
教職に就いて、1年と数ヵ月。目の前で絶えず零れ落ちていく涙を眺めながら、初めて、教師のような感情が自然と湧いた。
「今後はちょっとだけ、一糸先生を信用することにします」
そう言った椎名芙由が、目を伏せながら静かに笑う。
大人びた顔が少しだけ綻ぶと、少女らしい愛らしさが垣間見えた。
榎本は納得していたようだが、コイツは結局、“今まで話さなかった理由”を最後まで隠しきった。きっとその判断も誰か、おそらく榎本のためなんだろう。
椎名芙由は強い人間だ。
ただ、深い傷を負わせた教師達が見過ごしていたものに、自分は気づいた。表面からは見え難い彼女の良さを、せめて教師でいる間は大事にしてやりたい。
多少の面倒くささは、椎名芙由の将来への投資。コイツがこれからどう成長していくのか、少しばかり楽しみだ。