作業を始めてわずか10数分。ひとりの女子生徒から、至極自然な流れで話を振られた。
イベント前に盛り上がる話題といえば、大体決まっている。誰々くんを誘ってみるとか、後夜祭で告白するとか、せめて接点だけでも作りたいとか、それぞれに計画があるようだ。
「んー、たぶんカンナと一緒じゃないかな?」
「ウチはムリでーす」
隣で壁を背にだらしなく座っていたカンナが、生地カタログから視線を上げる。
「実行委員の忙しさナメんなよぉ?」
「そんな大変なんだ」
「ウチは委員なわけよ。他の人より責任あるし、当日も頑張らないと! でしょ」
見た目に反した真面目さに、思わず口元が緩んだ。
クラスメイトは『早速フラれたね』と笑い話へ変えるが、私としては、カンナの良さに注目して欲しいところ。
カンナの場合、外見の派手さが際立ってしまうけど、彼女の魅力はそこだけじゃない。整いすぎた顔のせいで敵も作りやすいが、敵になる女子は、決まって中身まで見ようとしない。
「ってことなんで、芙由チャンは他に回る相手見つけてね。たとえばぁ……」
「例えば?」
「陽平とか要とかさ。あ、この柄可愛くない?」
何を言うかと思えば。今回の班分けは裏ボス達を意識したわけではなく、ただの偶然だったのだろう。
切り替えるべく静かに息を吐き、カンナの横からカタログを覗き込む。
「……あと、はぎわら」
「えっ?」
ふいに聞こえた名前は予想外なもので、反射的に視線をカンナへ戻した。
「萩原達とかさ、中学ん時の友達って誘ってないの?」
「うん。楓とは連絡も取ってないし。別れたんだから、それが普通じゃない?」
私の問いかけに応えるように、カンナも遅れてこちらを見返す。でもそこには、無邪気な笑顔が標準装備の、私が知っているカンナはいなかった。
「今まで触れずにきたけどさ、何かあったよね?」
ガラス玉のような瞳にじっと見つめられ、心臓がドクンと反応する。
「……え? 何が?」
「昨日、学校の帰りに萩原に会ったんだよね。芙由は元気かって聞かれたよ」
カンナは無意識なのかもしれない。けど、普段よりも威圧的な喋り方が、神経を逆撫でる。
「別れた相手を真っ先に気にするなんてさ、まだ気持ちがあるってことだよね?」
「さぁね。楓の気持ちなんて知らないよ」
視線をカタログへ落とすと、湧き上がってくる感情を掻き分け、冷静さを引っ張り出す。これ以上、この話を引き延ばしたくない。
「萩原が『嫌いで別れたわけじゃない』って言ってたんだから、フッたのは芙由だよね」
――――やめて。
「ずっと側で見てきたから思うのかもしんないけど、……高校が離れるから別れるって話、正直信じてない」
「そんなこと言われても困るんだけど」
にぎやかな教室内でカンナの声だけが徐々に温度を失っていき、同調するかのように、私の言葉まで冷たくなる。
「芙由はさ、萩原との関係をすごく大切にしてたじゃん。だからこそ付き合うまでに時間かかったんでしょ?」
――――やめて。やめて、聞きたくない。
「不安ってだけで一方的に終わらせるとか、ありえない。ウチが知ってる芙由は、そうならないように動く人だもん」
強情でカンナらしくない声が、これでもかと心を掻き乱す。
イベント前に盛り上がる話題といえば、大体決まっている。誰々くんを誘ってみるとか、後夜祭で告白するとか、せめて接点だけでも作りたいとか、それぞれに計画があるようだ。
「んー、たぶんカンナと一緒じゃないかな?」
「ウチはムリでーす」
隣で壁を背にだらしなく座っていたカンナが、生地カタログから視線を上げる。
「実行委員の忙しさナメんなよぉ?」
「そんな大変なんだ」
「ウチは委員なわけよ。他の人より責任あるし、当日も頑張らないと! でしょ」
見た目に反した真面目さに、思わず口元が緩んだ。
クラスメイトは『早速フラれたね』と笑い話へ変えるが、私としては、カンナの良さに注目して欲しいところ。
カンナの場合、外見の派手さが際立ってしまうけど、彼女の魅力はそこだけじゃない。整いすぎた顔のせいで敵も作りやすいが、敵になる女子は、決まって中身まで見ようとしない。
「ってことなんで、芙由チャンは他に回る相手見つけてね。たとえばぁ……」
「例えば?」
「陽平とか要とかさ。あ、この柄可愛くない?」
何を言うかと思えば。今回の班分けは裏ボス達を意識したわけではなく、ただの偶然だったのだろう。
切り替えるべく静かに息を吐き、カンナの横からカタログを覗き込む。
「……あと、はぎわら」
「えっ?」
ふいに聞こえた名前は予想外なもので、反射的に視線をカンナへ戻した。
「萩原達とかさ、中学ん時の友達って誘ってないの?」
「うん。楓とは連絡も取ってないし。別れたんだから、それが普通じゃない?」
私の問いかけに応えるように、カンナも遅れてこちらを見返す。でもそこには、無邪気な笑顔が標準装備の、私が知っているカンナはいなかった。
「今まで触れずにきたけどさ、何かあったよね?」
ガラス玉のような瞳にじっと見つめられ、心臓がドクンと反応する。
「……え? 何が?」
「昨日、学校の帰りに萩原に会ったんだよね。芙由は元気かって聞かれたよ」
カンナは無意識なのかもしれない。けど、普段よりも威圧的な喋り方が、神経を逆撫でる。
「別れた相手を真っ先に気にするなんてさ、まだ気持ちがあるってことだよね?」
「さぁね。楓の気持ちなんて知らないよ」
視線をカタログへ落とすと、湧き上がってくる感情を掻き分け、冷静さを引っ張り出す。これ以上、この話を引き延ばしたくない。
「萩原が『嫌いで別れたわけじゃない』って言ってたんだから、フッたのは芙由だよね」
――――やめて。
「ずっと側で見てきたから思うのかもしんないけど、……高校が離れるから別れるって話、正直信じてない」
「そんなこと言われても困るんだけど」
にぎやかな教室内でカンナの声だけが徐々に温度を失っていき、同調するかのように、私の言葉まで冷たくなる。
「芙由はさ、萩原との関係をすごく大切にしてたじゃん。だからこそ付き合うまでに時間かかったんでしょ?」
――――やめて。やめて、聞きたくない。
「不安ってだけで一方的に終わらせるとか、ありえない。ウチが知ってる芙由は、そうならないように動く人だもん」
強情でカンナらしくない声が、これでもかと心を掻き乱す。