次はカンナのバッグ。こっちはできるだけ原型を留めておくために、手探りで中身を確認する。

順番に布の間へ手を挿入していき底まで辿り着いてしまった時、スベスベとした小さな箱に触れた。ゆっくりと引き抜いたそれはやはり、開封済みのタバコだった。

安堵と憂鬱と、苛立ちを抑えるためにフーッと息を吐く。

――――さて、どうしよ?

持って出て、隙を見て処分するか。落ちていたと本人へ返すか。もしくは。

「椎名さーん?」

ノックと同時に聞こえてきた一糸先生の声に、ビクッと身体が跳ねる。

「あっ、はい! 行きます!」

とりあえずタバコを自分のバッグへと押し込むと、私は急いで部屋を出た。

「すみません、お待たせしました」

第一ミッションはクリア。でも、気を抜くにはまだ早い。
カンナのバッグに忍ばせて終わり、なわけがない。相手が次の行動に出る前に処分してしまいたいが、誰かに見られるのも困る。

――何より大事なのは、私が企みに気づいている、と悟らせないこと。

みんなの所へ戻った私は、他愛ない話に笑顔を作りながら、今後の行動を頭で何度もシミュレーションした。



キャンプもどきがお開きになると、生徒達は消灯までの時間を思い思いに過ごす。焦って失敗するのはごめんだけど、彼女達よりも早く動かないと意味がない。

「カンナ、お風呂いつ行く?」

それとなく尋ねながらも、着実に準備を進める。
着替えとポーチ。タバコはタオルの間へ。それを全てトートバッグに詰め込む。

「ウチはいつでもいいよー」
「んじゃ、とりあえず混んでないか見てくるね。ちゃんと準備しといてよ」
「ガッテン!」

カンナに念を押して歩き出した直後、部屋のドアが開いた。
湿ったままの髪と大判タオルがよく似合う、底意地の悪そうな顔が3つ並ぶ。

和気あいあいと現れた彼女達を素通りした私は、ドアを閉めてから歩みを早めた。

――――大丈夫。

中庭に誰も居ないことが確認できたら、すぐに部屋へ戻ってカンナとお風呂へ向かう。それから、忘れ物をしたとでも言ってアレを置きに行けばいい。

中庭へのドアは脱衣所の方が近いし、サブバッグを持って出れば、手ぶらでうろつくよりは怪しまれない。

沢村先生もあの場所でタバコを吸っていたのだから、ベンチの下に落ちていても(●●●●●●)不自然じゃない。

問題は、“喫煙スペースに人が居ないか”だけ。

目的地との距離が縮まるにつれ、踏み出す一歩が早くなる。
たぶん、この廊下を左に行けばベンチが見えるはず。――そう思いながら最後の角を勢いよく曲がった瞬間、死角にいた人と真正面からぶつかってしまった。

「あっ、すみません!」
「いえこちらこそ」

――――ん?

耳馴染みのある声に慌てて顔を上げると、非の打ち所のない整った顔がこちらを見返していた。

やっぱりまたこの人だ。なぜ、一糸先生はいつもいきなり現れるのだろうか。それもタイミングが悪いときばかり。

「あ! 椎名さん、丁度良かったです。ちょっとお訊きしたい事があるんですが」

――――こっちは丁度良くないんだけど?