むくりとベッドから起き上がり、ジャケットに突っ込んでいた例のハンカチを出す。

私はなぜあの人を疑いもせず、大人しく公園までついていったのか。分かっている事といえば、不覚にもモッさんに助けられた事実だけ。

…………。よし、やめよう。忘れよう。
号泣してしまったことも、大声で当たり散らしたことも、全部忘れる。どうせ2度と会うことはない相手だ。

致し方なく持ち帰ってしまったハンカチを握りしめて、立ち上がる。お風呂へ行く前に、やるべきことがもう一つ。

枕元に置いていたスマホは、もう大して冷たくはなかった。

【芙由も高校がんばれよ】

楓から届いていた10文字の言葉を、刻み込むように読み返す。階段を降りながら、最後に見た楓の笑顔と一緒に反芻する。返信はしない。できない。

でも、泣くのは今日が最後だ。


これは悲しい別れじゃない。これは、大事だからこその、正しい選択だ――。