ごく自然に2人が横へ並ぶ。私よりも少し小柄な、160センチほどのカンナを挟んで見る彼らは、バスケ男子らしい背丈が一段と際立った。

「ねーねー、その榎本さんとか椎名さんってヤメない?」

危険地帯へ率先して飛び込んだカンナを、あ然と見つめる。快眠のおかげで、例の女子3人組の存在を忘れてしまったのか。

「それだけどさ、オレは“南くん”で、要は“要くん”なんだよねー」
「マジじゃん! てか、芙由が要くんって呼ぶからだよ」

本音を言えば、この2人と距離が縮まるのは満更でもない。でも、3人組の影がチラついて落ち着かないのも事実。
――だから私は、気にしても仕方ない、なるようにしか成らない、と言い聞かせながら自ら逃げ道を塞ぐ。

「あ……じゃあ、芙由でいいよ?」
「オレも陽平(ヨウヘイ)で」
「ウチはカンナー」

当然の流れで行き着いた視線の先では、『え、俺は最初から要くんだけど?』と要くんが真顔で応えた。

「違うっつの。みんな呼び捨てにしようって話じゃん」
「ねーねー要っ! カンナって言ってみ?」
「カンナ」

堪らず私が吹き出すと、笑いは瞬時に伝染して場の雰囲気が和む。
男子と絡むときは変に勘ぐる必要もなくて、本当にラクだ。

「私達のんびり行くから、陽平と要は構わず行っちゃっていいよ?」
「そう? じゃあ要、行くか。また後でね」
「うんうん! またゴールで会おー」

要くんがコクリと頷いたのを合図に、2人はどんどん周囲を追い越し、遠ざかっていく。

あの2つの背中に害はない。ただ、台風の目になる可能性を秘めている、ってだけ。
……今のところは。

「よかったと思う?」
「え、なにが?」
「あの2人と仲良くなったこと」

未だ消化不良なままの疑問を吐き出すと、カンナは数秒黙り、にやりと口の端を吊り上げた。

「いいんじゃん? あの子らに遠慮する意味ないし。それに、何かあっても芙由がズバッとヤッちゃうでしょ」
「……どうだろうね」

背を曲げてこちらを覗き込むカンナが“悪戯っ子”だとしたら、私は“詐欺師”に匹敵するのかもしれない。曖昧な言葉を口にしながらも、絶対的な自信持って微笑めるのだから。

「榎本さん、椎名さん」

2人の会話が途切れると、タイミングを図ったかのように、また背後から名前を呼ばれた。

出会ってからまだ数日しか経っていないのに、既に聞き慣れてしまった低音ボイス。だが、今日はなんだか人気者だな、なんて呑気な嫌味を思い浮かべられたのは、振り返るまでのほんの一瞬だった。

「おはよう、椎名さん、カンナちゃん」

――――でた。
噂をすれば何とやら、ってやつ。

「おはようございます。ここがクラスの最後尾ですよ、頑張ってください」

例の3人組に囲まれた黒ジャージ姿の一糸先生が、いつもの穏やかな微笑を向けてくる。でも今の私には、この人に構っている暇はない。

適度に愛想よく挨拶を返すと、饒舌なカンナの陰で、私はそれとなくキノハラさんとの距離を詰めた。

「さっき南くん達が通ったよ。もう会った?」
「いま?」
「そう。たぶん、まだ追いつけると思う」