「晴士、もう焼き鳥屋着いてる?」
『いま来たとこ。状況はおっちゃんに聞いてるから大丈夫だよー』
「悪いな、もう少ししたら戻るから」
『ほーい! じゃあ後で』

電話を切ると、自販機でブラックコーヒーとカフェオレを買う。冷たい外気に晒され続けていたせいか、缶コーヒーの暖かさがじんわりと痛かった。

10代半ばの女の子を一人で公園に残しているので、モタモタしている暇はない。

「何やってんだか」

公園への道を引き返しながら、頭に浮かんだ言葉を呟いてみる。吐き出した分だけ深く息を吸うと、微かに残っていた酔いまで醒めていく。


店の外へ出たのは、晴士に電話するためだった。すぐに戻るつもりだった。アイツが店先で泣いていなければ、今頃は旨い飯とビールと、他愛もない会話を楽しんでいたはずだった。

今後は毎日のように、こんなガキ共の相手をするんだ。……想像しただけで気が滅入る。

先程より大きくため息を吐いたところで、状況は変わらない。空気の冷たさも変わらないから、歩く速度も変えられない。

見限るタイミングは何度もあった。

でも、そうしなかったのは自分だ。


公園へ戻り、2本目のカフェオレを渡し、頃合いになったら焼き鳥屋への道をまた戻る。
大人しくついて来ているかと振り返ると、例の女の子は、店先で会った時よりもスッキリとした表情をしていた。

他人に怒りをぶつけた後なのだから、当然といえば当然。でもまあ、キレられ損にならなくて良かった、と思うことにする。


――なぜ、彼女を放っておけなかったのか。
それは多分、少しだけ同調したから。

人付き合いの中で、作られた自分を演じる人間は少なくない。本心を隠して上辺だけで会話を繋ぐ人もいれば、コミュニティに合わせて自身の雰囲気から何から変える人もいる。
でもそれは、ラクだから、という前提ありきの話だ。

彼女が演じる“彼女”は、見ているこっちが顔をしかめたくなるくらいに、息苦しそうだった。

身に覚えがあるからこその衝動、とでも言うのだろうか。気づけば手を伸ばしていたし、去り際にまで余計な世話を焼いてしまった。

『……背伸びは良いけど無理すんな』

ガキなんて好きじゃない。恋人と別れた程度でビービー泣くなんてくだらない。ついでに、自分のことばかり責めるようなクソ真面目な奴も、見ていて気分が悪い。



「おつかれー! 先にやってるよ」
「ああ」

店の中へと戻ると、上着はそのままに晴士の隣へ腰を下ろす。数十分前まで座っていたカウンター席は、さも最初から2人組で来店していたかのようにゴチャついているが、まあいい。

「とあちゃん、ありがとな!」
「どういたしまして」

お礼と一緒に差し出されたビールジョッキは、霜がビッシリと付着していた。

流し込んだビールに身震いするほどの寒さを感じたのは一瞬で、すぐにそれは火照りへと変わる。

「で、可愛い女の子との進展は?」
「キレられて、缶コーヒーを2本奢っただけ」
「え、意味わかんない」
「同じく」