色が褪せ、至る所のペンキが剥げてしまっている滑り台と、2台並んだブランコ。木とロープで造られたジャングルジム代わりのアスレチックに、高さ違いに3つ並んだ鉄棒と、その横には砂場。

楓とも、学校が早く終わった日はここで他愛もない話をして過ごした。

「えっ、ちょっ――」

モッさんは何も言わず、ズンズンと公園の中へ入って行く。こんな所を通って一体何がしたいのか、もう訳がわからない。

中ほどにある屋根付きピクニックベンチへ来ると、モッさんは沈黙を貫いたまま奥の椅子に腰掛けた。挙げ句、背を向けて、ポケットから出したタバコに火を点ける。

ぼう然と立ち尽くしているわけにもいかず、仕方なく私も手前に腰を下ろし、缶コーヒーを開けた。

「あのー……」

無音な状況をどうにかしたくて話しかけたものの、続くネタが出てこない。

「人の迷惑を考えて行動しろよ」
「え?」

街灯の明かりが滲んだ黒い頭越しに、一本の煙がユラユラと登っていく。

「あんな場所で泣き崩れるくせに、知った顔が出てきたら何でもないですってか? ほんとガキだな。あの状況見て、はいそーですかって終わるわけねぇだろ」

口が悪いだけの良い人かと思ったけど、やっぱりそんなことはなかった。

「説教ですか?」
「いや、無理して気丈に振る舞おうとしてるのがバレバレだって教えてんの」

缶コーヒーをぐっと握り締め、一呼吸置いて平静を保つ。

「何も知らないのに、なんで無理してると思うのかわかりません」
「悲劇のヒロインにでもなりたいのか? それこそ失笑もんだぞ」

こちらをチラリとも見ようとしない態度。一方的な物言い。モッさんの全てが私を煽ってくるが、ここで感情的になったら負けだ。

「あなたにはわかりません」
「ガキの惚れた腫れたなんて、興味も沸かねーよ」

……は?

「なら余計なお世話ですよ。帰りますね、コーヒーありがとうございました」

この捨て台詞で、このタイミングで帰ろうと決めていた。でもできなかった。背を向けてすぐに、ため息とも笑い声ともつかない乾いた音が聴こえてきて、足が止まってしまった。

「どうせ、寝て覚めたら次のイケメンを追いかけんだろ。くだらねぇ」

背後から追い打ちをかけてくる冷たい声。なぜ、さっき会ったばかりの人に、ここまで言われないといけないのか。

口を結んで堪えると、喉の奥から込み上げてくる怒りで息苦しくなる。

「いちいち心砕いてても時間の無駄」

ぼとり、と泥のように重い呟きは、これまでのどれよりも“否定”だった。

「……何がわかんの……」
「は? 聞こえねぇ――」
「無駄って……そんなのわかんないじゃんっ!」

私の中で何かが弾けた気がした。
今日まで上手く処理できていたはずの思いが、どっと押し寄せてくる。

「大人っていつもそうだよね? 知った顔で偉そうに、何が正しくて、何が間違ってるかって。私が大事だって思ってても、必要ないモノだって切り捨てるよね?」

振り返ると、モッさんはいつの間にかこちらを向いていた。その素っ気なく頬杖をついた姿が、涙で歪んでいく。

「――んで。ねぇ、なんで本気じゃないって思うの?」