……ただ、なんというか、変。

適当な面はあるが蔑ろではなくて、私達に近い立ち位置で接してくれているかのようで、でも確かな線引きがされているようで。掴みどころがない、というよりは、掴ませてくれない――そんな感じ。

あの人がどんな絵を描くのか、少しだけ気になる……気がしなくもない。


「ねー芙由、どうよ?」
「なにが?」
「春先生だよ! 萩原より全然いい男じゃん!」

また“ハギワラ”か。

残り2切れのサンドイッチを確認してから、ゾゾゾッとカフェラテを最後まで吸い上げる。風でなびく前髪の隙間からカンナを見ると、西洋人形みたいな横顔は、楽しそうにクロワッサンの渦を剥ぎ取っていた。

「ちょっと飲み物買い足してきていい? カンナも何かいる?」
「んにゃ、ウチはだいじょーぶ」

わかった、と笑顔で頷き返して屋上を出る。

静かな階段で吐くため息は、自分の足音と同じくらい大きかった。だが私が悶々と悩む間もなく、ドアの開閉音が下階から水を差す。

――幽霊が出る、ワケないか。あれは成弥くんが作った嘘だ。

3階へ折り返しても人影が見当たらず、そろりと廊下の奥を覗く。そこにいたのは今朝と同様、ダンボールを抱えた一糸先生だった。

こちらへ向かって来ていた先生が気づいて微笑むまで、ほんの数秒だっただろう。
私はその笑顔には応えずに、また階段へと戻った。


楓よりいい男……な、ワケがない。

カンナが言うように、先生はイケメンだと思う。でもそれだけだ。顔面偏差値がどれだけ高くても、中身までイケメンだとは限らない。