「おつかれ〜お土産は?」
「はい。いちごアイス」
「わーい!!」
 葵と茜が帰って来たので、お土産をねだると葵が店の在庫からいちごアイスを持ってきた。
「なぁ葵、俺のんは?」
「働けニート」
「ひどっ!」
「学生の仕事は勉学だ。茜は大人だろ」
「、、、」
 葵の正論パンチに頭を抱えてソファに埋もれる茜。
「仕事したくな〜い!働きたくな〜い!」
 こういう大人にはならないでおこう。そっと心の教訓に追加した。

 翌日、何時も通りカフェ・ノワールに足を運ぶと、珍しく行列が出来ていた。
時間帯によっては行列出来ることが多々あるが、こんな平日に、しかも五時ぐらいに行列なんて今まで見たことがない。
ようやく入店すると、驚きの光景を目にする。
「いらっしゃいませ〜」
店の制服に身を包んだ茜が注文をとっていた。
 その光景はあまりにも新鮮で、違和感しかなかった。
「お姉さん、今暇?良かったら今度、出掛け、、、」
「口説くな!手を動かせ!!」
「え〜、、、」
 お客さんを口説く茜。それにキレる葵。お客さん達からは黄色い歓声。
そこでようやく行列の意味が分かった。
お客さん達は定員姿の茜をひと目見ようと並んだのだろう。

「あ〜、、、しんど」
 閉店時、何時ものようにソファでゴロゴロしていた茜に、葵から封筒を渡される。
「ん?なんやこれ?」
茜は封筒を振ると、紙が掠れる音がした。
「もしやこれは、、、」
 さっきまでの疲れは何処へ行ったのか、嬉しそうに封筒の中身を確認する。
 中身はお金。一万千二百円。
「時給千四百円で八時間な」
 たまに生活費を稼ぐ為、此処でバイトしているが、かなり時給が良い。
 そのくせ、まかないもちゃんと付いてくる。
 バイトを希望する人が後を絶たないが、葵曰くバイトは募集していないということ。
 お金を見て、茜は肩を落とす。
「はぁ、、、今欲しいんは女の子との出会いや。返すわ」
 一発お盆で叩いても許されると思う。
 葵に目を向けると首を横に振る。
「受け取れ」
「何でや!別に俺は金が欲しくてバイトしとんちゃうで?遊園地の一日乗り放題チケットやったら良かった、、、デートしたかった」
 茜らしい理由だった。
「労働の対価はきちんと払わないといけない」
「、、、そこまで言うんやったらデートの資金にするわ、、、」
 葵が勝った。葵はお金関係に厳しいからね、、、。
もう葵が親で良いよ。
「水道代、光熱費、ガス代、食事代、家賃、、、ハハハ」
思い出したくないことを思い出して苦笑い。
 今の生活でもギリギリなのだ。高校の入学金や授業料、教材料などでお金が一気に飛んでいく。最近は食事を一日二食に減らしたり(ご飯に豆苗)、お風呂は五分以内。洗濯は手洗いというのが現実。
「千鶴。最近、まともに食ってないだろ」
「、、、うん」
葵は鋭い。隠すことなく全て白状する。
「、、、なるほどな」
 この現状生活の話が明日、大変なことに繋がることになるとは、今の私は知らなかった。