放課後、真っ直ぐに家には帰らず、向かった先は最近女子高生に人気の喫茶店『カフェ・ノワール』
 大正時代を連想させる少しレトロな店内にクラシック音楽。
「マスター!来たよ~」
 カウンター席に座り、コップを拭いている黒髪青メッシュのマスターに手を振る。
「千鶴、そのマスターって呼び方止めろ。鳥肌立つから」
「じゃぁ、葵。いちごパンケーキの生クリーム増し増しで!」
「自分の店のメニューに書いてあってなんだけど、よく食べれるね、、、」
「まぁね!」
 この喫茶店のオーナー『菊辻葵』
 完璧な容姿にさり気ない気遣いがイケメン過ぎると一部のお客さんの中でファンクラブがある程、人気。
 ちなみに年齢は二十五歳。
 いちごパンケーキが運ばれて来るのを心待ちにしていると、カランカランと誰かが入って来た。
 目線をずらして誰か見るとびしょ濡れの青年。長い赤髪を三つ編みにして結っているこの青年は私と同じく常連。
「茜!何で濡れてるの!?」
 茜の髪からは水が流れている。
「雨、、、降っとった。傘、、、忘れた」
 絶望オーラを(まと)い、私の隣に座る。
この青年は『神崎茜』
ニートを極める自宅警備員。有名大学を卒業してるくせに一向に働こうとしない二十三歳。朝と夕方の二回、黄色い旗を持って通学路に立っているから知っている人は多い。彼にもファンクラブがあるらしい。
「、、、雨、降ってたの?」
「降っとった」
「おいコラ茜。ずぶ濡れのまま店入らないでくれる?」
待ちに待ったパンケーキとタオルを持った葵が黒い笑みを浮かべて言った。
パンケーキを私の方に置き、タオルを思いっきり茜の顔面に投げる。
「いでっ!」

お客さんも帰り、雨も止んだ午後十時。
『CLOSED』と書かれたプレートを店のドアに掛けに行った葵。
ソファ席でぐーたらしながらスマホをいじる茜。
テーブル席で宿題と戦う私。
「今日の依頼はなんやっけ?」
「警察の汚職?」
「いや、知らんのかい!」
「、、、えへ」
なんてやりとりをしていると葵が戻ってきた。
「今日は密売オークションの殲滅じゃなかったっけ?」
「あー!思い出した!確か子供を拉致して外国に売りさばいているとこじゃん」
「ほな、セキュリティのハッキング頼むわ」
「はいはーい」