碧人とは、ただの幼なじみの関係だった。

今でも向こうはそう思っているだろうし、私もその役割を演じている。

中学二年生の夏に知った恋は、私をしあわせにしてくれた。そして、少しだけ多くの悲しみとせつなさも教えてくれた。

特別な存在になるほどに、自分がちっぽけに思えていく。そんな恋をしている。

なにげない会話でも、碧人の話す言葉はお気に入りの歌のように心に染みこんだ。夜になればひとり、彼が言った言葉を頭に浮かべたりもした。

そのたびに思うのは、『この恋は叶わない』ということ。いつか、碧人のよさに気づく誰かが現れ、彼も相手を好きになってしまうことが怖かった。

だけど、最近の私は少し違う。碧人をあきらめる覚悟のようなものが胸に芽生えている。そうすれば、前のように気兼ねなく話ができる気がして……。

こういう気持ちになれたのは、幽霊に会うようになってからのこと。思い残しを抱える幽霊を見ていると、毎日のなかに後悔がたくさんあることに気づいた。

急にあきらめることはできないけれど、少しずつこの気持ちを解き放てるような気がしている。

「ちょっと実月、どうかした?」

梨央奈の声にハッと我に返るのと同時に、周囲のざわめきが波のように押し寄せてきた。