旧校舎の前で黒猫とともに涼音さんを見送った。

涼音さんの悲しみはまだ続いていく。だけど、周りの人のやさしさにいつか、その傷が癒されると私は信じたい。

足音にふり向くと、碧人がポケットに両手を突っこんで立っていた。

「終わったか」

「うん。ふたりの別れを見守ることができたよ」

思い出せば泣けてくる。

「使者になってみた感想は?」

目じりの涙を拭う私に、碧人が尋ねた。

「まだ実感がない感じ。でも、ずっと心にあった『青い月の伝説』の世界にいるんだなって……不思議な気持ち 」

そう言うと、碧人は呆れた顔になった。

「前は忘れてたくせに?」

そうか、と気づいた。私も碧人にウソをついている。

碧人を好きになり、本当の自分が出せなくなっていた。

でも、陸さんと涼音さんのように、別れはいつ来るかわからない。だとしたら、後悔がないようにウソをつくのはやめなくちゃ。

「本当は忘れてなかった。ウソをついてごめん」

謝られるとは思ってなかったのだろう、碧人がアワアワと落ち着かなくなる。

「いや、俺も……なんか、ごめん」

それから私たちは顔を見合わせて笑った。中学生のころに時間が戻ったような感覚がくすぐったくて心地いい。

「また青い月が出たら、今度は一緒に来ようよ 」

「ああ、約束な」

「うん、約束」

明日、海弥さんに会いに行こう。『いちばんの親友だ』という陸さんの言葉を伝えよう。

残された人に想いを伝えるのが使者の役目だと思ったから。

空を見あげると、銀色の月が真上で光っていた。

遠い空で陸さんが笑っている。そんな気がした。