目が覚めると同時に、ベッドから起きあがっていた。

とたんに襲われる頭痛に、小さな悲鳴が漏れた。頬に流れているのは涙じゃなく、汗だった。

なんだ、夢だったんだ……。

時計を見ると夜中の二時を過ぎたところ。キッチンに行き、冷たい水を飲むと少しだけ頭痛がマシになった。

「ああ……」

あんな夢を見たのは、夕方の出来事のせいだ。ずっと我慢してきたのに、ついに爆発してしまった。

『自分が興味があるときだけ話しかけてこないで』

去年の仕返しみたいに言ってしまった言葉を、予想どおり後悔している。

リビングのカーテンを開けると月が私を見ていた。また少しふくらんだ月は、明日には『上弦の月』と呼ばれる半月になるだろう。

土日に青い月が出ても、連絡する勇気なんてない。それくらいひどいことを言ってしまったのだから。

青い月を見たあの日に戻れたなら、なにかが変わるのかな。図書館に一緒に行かなければ、この気持ちに気づくこともなかったはず。ミサンガだって作ることもなかった。

こんなに苦しいなら、好きになりたくなかったよ……。

まるで高速で走る列車に乗っているみたい。景色を眺める余裕もなく、碧人のことばかり考えている。

どんなに悲しくても、途中下車することもできず、終着駅に着く様子もない。

碧人のことを考えてばかりいる自分が嫌い。碧人は私のことを一秒だって考えてくれていないのに。

――ぜんぶ、私のせいだ。

恋なんかしてしまったから、碧人は遠ざかってしまったんだ。

スマホのゲームみたいに、この恋 心をアンインストールしたい。そうすれば 、ただの幼なじみに戻れるのに。

だけど、この気持ちを消したくない自分もいるわけで……。

「ああ、もう」

やつ当たり気味に、のんきに浮かぶ月をにらみつける。

……そうだ、陸さんのことだ。

陸さんは去年の春に事故で亡くなってしまった。彼は三年一組の立花涼音さんを『元カノ』と言っていたけれど、恋人同士のまま亡くなったのかもしれない 。自分が消えてしまったから、あえて『元カノ』と呼んでいるのかも。
 
伝えたいことを伝えられないまま、あの場所にとどまっているのならなんてせつないのだろう。

そこでやっと気づいた。

あの伝説に書いてあった『ふたり』は陸さんと涼音さんのことだ。

彼の思い残したことを解消するために、私が黒猫に使者として導かれた……?

まだ確信は持てない。あまりにも非現実過ぎて、壮大などっきり企画に巻きこまれているような気がする。

一度会いに行ってみようかな。陸さんが想いを残した人に。