「へぇ、ステップはなかなか様になってるな」
 また別の日、私はカイルに手を取られダンスの練習をしていた。
「そう? まぁ、踊ることは昔から嫌いじゃないしね」
「あぁ、いい感じだ。動く方向へぴったりついてきているし、もたつきもない。足元や芯がしっかり安定しているから、羽のように軽く感じる」
「そ、そう?」
 そこまで褒められると、むずがゆくなってくる。
「カイルのリードがいいからじゃない?」
「お? 少し褒める力が付いたか?」
「本当のこと言っただけよ」
 音楽に合わせ、足を進め、かかとを引き、そしてターンをする。
(あ……)
 不意に繋ぎ合っている手を意識してしまった。
(カイルの手、おっきいな)
 指が私よりも太くてごつい。体温も高い気がする。
(男の人の手、って感じ)
 意識した瞬間、ほんのわずか足元がぐらついた。
 すかさずカイルの手が私の腰を引き寄せる。私はカイルの胸の中に身を預ける形となってしまった。
「ご、ごめん」
「どうした? つまづいたのか」
「あぁ、うん、そんな感じ」
 飛び込んだ先の胸は、思いの外広くて大きかった。
(子どもの頃から遊んでいた、あの少年のイメージのままだったけど)
 ずしっと逞しいその胸に、私は困惑する。
(私の知ってるカイルじゃない感じ)
「えっと……」
 私は顔を上げる。すぐ目の前にある、青い瞳。一瞬、カイルが驚いたように目をしばたかせた。
「ったく」
 不意にカイルは私を放り出すように、体を離す。
「きゃ」
「相手が俺だったからよかったけど、陛下相手に今のはなしだな」
「と、当然よ」
 私は彼に背を向ける。
「あんたの足は踏みまくっても、陛下の前では完璧なステップを踏んでみせるわ」
「そうしろ」
 言ったかと思うと、カイルは私の腰の後ろをペンッと軽く叩いた。
「何すんのよ!」
「体幹は見事だと思うぞ。俺と子どものころから木剣で遊んでいた甲斐があったな」
 言われてみれば。あれで足腰がかなり鍛えられた気がする。
「それに剣の腕だってその辺のご婦人とは比較にならんだろ。それを生かして陛下を守れるのはお前の強みだ」
「そうなの?」
「あぁ。ひょっとすると、護衛もできる恋人として重宝されるかもな」
 う~ん、そちらばかり頼りにされるのは何だかなぁ。
 私は恋人になりたいのだ。陛下と、甘くロマンティックな恋がしたいのだ。