「だけど、俺は最近、お前がそういう事をしているところを見ないぞ。いつも、ブー垂れてるところばっかり」
「……そんなこと……」

 私が、拓斗の指摘に口籠っていると、完成した料理を運んできた礼美が私たちの話に加わった。

「そんなことないって本当に言えるの? 私も最近は、あんたから仕事の愚痴しか聞かないわよ。前はもう少し仕事に対して前向きだったと思うけど? 初めての撮影のときも、握手会のときも、アレができなかった、こうすれば良かったって大騒ぎして鬱陶しかったけど、少なくとも、今よりは仕事に対しての向き合い方は良かったと思うわ」
「鬱陶しかったって、何よ?」

 礼美の言い方が引っ掛かり、私は、つい声を尖らせる。

「今のあんたは、そう。少し人気が出たからって、天狗にでもなってるの? すぐに、人の苦言に突っかかるんだから。指摘されたことをもっと謙虚に受け止めなさいよ? 佐藤さんだって、本当は、こう言いたかったはずよ。でも、はっきりと言えなかったのね。苦言を呈せば、あんたが腹を立てて離れていくと思って……」
「そんな言われ方して、腹が立たないとでも思ってるの?」

 私と礼美の間に、ものすごい勢いで散る火花が見えた気がした。それを払うかのように、拓斗が私たちに向かって手を払う。

「はい。止めやめ。礼美もそんな棘のある言い方するな。こいつが、余計意固地になるだけだ」
「だって、拓斗。この子は、はっきり言わないと分からないのよ。佐藤さんのことだって……」
「佐藤がなんだって言うのよっ?!」

 私は、目を吊り上げて礼美を睨みつける。

「ほら、お前も。そんな怖い顔するな。俺たちは、いつだってお前の味方だ。だけどな、味方だからこそ、時には厳しいことも言う。俺は、今のお前は、文句ばっかりで、きちんと仕事と向き合ってないと思うぞ。上手くできなくても、次を見据えて、試行錯誤を繰り返す。それがお前の持ち味じゃなかったのか? 佐藤さんはきっと、その頃のお前に戻ってほしいと思ってるはずだぞ」

 幼馴染の二人から手厳しい指摘をされ、私は、居たたまれなくなった。唇をぎりっと噛み、どう言い返そうかと沸騰寸前の頭で考える。

 その時、机に放りだしたままのスマホが震え、着信を告げた。チラリと画面に視線を向ければ、噂の佐藤からだ。

 私は、軽く舌打ちをしてから、乱暴にスマホを手に取る。この時間の連絡は、仕事の変更に関することが多いため、電話に出ないわけにはいかないのだ。