私は、グラスに入れられていた黄金色の液体を一気に喉へと流し込むと、勢いよく、グラスを机に置いた。

「ったく、佐藤の奴、一体何なのよ。もう」

 私の不満声などお構いなしに、キッチンで料理をしている礼美は、あからさまに顔を顰める。

「ねぇ、もう少し静かにグラス置いてよ。割れちゃうでしょ」
「ああ、ごめん。なんか、イライラしちゃって」

 友人とはいえ、ここは他人の家なので、一応は謝るものの、私の声に謝罪の意は籠っていない。そんな上面な私の言葉を、嫌うように、礼美は再度顔を顰めた。

「どうしたんだよ? そんなに荒れて」

 今日は仕事が休みなのか、家で寛いでいた拓斗も礼美宅へと呼び出し、私の愚痴を聞かせる。

「拓斗さ~、この前、佐藤さんの気持ちも考えてやれとか言って、佐藤の肩持ってたけどさ。あいつ、今日なんて、いきなり説教モードよ。もう意味わかんない。まるで、私が真面目に仕事してないみたいに……あいつの方がよっぽどか、私のことわかってないのに、あんたは、私にあいつの何を解れって言うのよ?」

 私の剣幕に、少々顔を引きつらせつつ、拓斗は私の向かいの席に腰を下ろす。すかさず、礼美が拓斗専用のグラスに黄金色の液体をなみなみと入れて持ってきた。拓斗は、礼美に軽く礼を言うと、早速グラスに口をつけた。

「説教って、何言われたんだ?」

 私の愚痴を聞き慣れている拓斗は、話の先を促す。聞き役を得た私は、この時とばかりに、内に溜まったものを吐き出した。

「あいつには、私の仕事が適当に見えるんだって。もう少しでいいから、仕事と真剣に向き合えって。ねぇ、私のどこが真面目に仕事してないの? この前の撮影だって、握手会だって、ホントは嫌だったけど、決められた仕事だからやったのに!」

 私に最後まで、言葉を吐きださせると、拓斗は鼻から息を吐き出してから、面倒くさそうな視線を向けた。

「お前さぁ、仕事の仕方にケチつけられたって、怒ってるのかもしれないけど、他にも、佐藤さんに何か言われただろ?」
「何って……モチベーションを上げろとか?」
「なんだ。やっぱりそうか。あのさ、俺は一般人だから詳しいことは分からないけど、お前の仕事って、その場にいればいいだけの仕事なのか?」
「そんなわけないじゃない。その場に合わせて、気持ち作ったり、役の研究したり、いろいろあるわよ」
「だよな。そうだと思う」

 そこで、拓斗はグラスに口をつけると、一呼吸置いてから、再び口を開いた。