「……以上が、今後のスケジュールになりますが、何か質問はございますか?」

 マネージャーの佐藤が司会進行を務める、月一回の定例会議は、私、紺野桜と所属事務所の社長の三人で行われる。今後のスケジュール確認及び、プロモーション活動計画が話し合われる場なのだが、当人である私にほぼ発言権はなく、社長がたまに、ボソリと何かを言うだけの、基本的には、佐藤が一人話し続ける会である。

 今日も、佐藤が一人、淡々と言葉を発し、それを社長は腕を組んでむっつりと聞いていた。私はと言えば、その場にいるだけで、自身のスケジュールをメモするでもなく、これから行う仕事内容の確認をするでもなく、ただ、ボケっとそこに座っているだけだった。どうせ、前日には佐藤から再度の確認があるのだから、真面目にメモなど取る必要もない。佐藤がいれば、仕事をすっぽかすなんて心配はないのだ。

 ぼんやりしていても会議は終わる。私は佐藤に肩を叩かれて、我に返ると、社長に軽く一礼して、前を行く佐藤を追いかけて部屋を出た。入れ違いに、最近売り出し始めた新人タレントと担当マネージャーが、社長が待つ部屋へと入っていった。途端、今の今まで私がいた部屋なのかと耳を疑いたくなるほどに、室内が賑やかになった。

「桜、ちゃんと聞いてたか?」
「全然。だって、つまんないんだもん」

 珍しく渋い顔で私に問いかける佐藤をチラリと横目で見てから、私はフイっと視線を逸らすと、悪びれもなく本心を口にする。

「つまんないってっ……、あのなぁ、もう少し自分の仕事に興味持ってくれよ」
「あら。スケジュールなんて、佐藤さんが管理してくれるんだから、覚える必要ないじゃない」
「そういうことじゃないよ。キミはもう、子供じゃないんだ。自分のスケジュールを自身で把握することは、社会人として当然のことだ。それに、仕事に対するモチベーションも、もう少し上げた方がいい」
「何よ? 今日は説教モードなの?」

 揶揄い気味に声のトーンを上げ、チラリと佐藤を見れば、いつになく真剣な眼差しがこちらを射抜く。佐藤は立ち止まり、悔しそうな声をあげた。

「この前の撮影だって、握手会だって、キミがモチベーションを上げるだけでもっといいものになったはずだ。それなのに、キミは、やっつけ仕事のように適当に(こな)している。それじゃ、キミの魅力はみんなに伝わらないんだよ! もう少し……もう少しでいいから、仕事と真剣に向き合ってくれないか?」