「おっ! いいね〜。いいね〜。でも、もう少しだけいってみようか」

 そんな声に乗せられて、私は、また少し、Tシャツの裾を捲り上げる。かなり大きめのTシャツは、超ミニ丈ワンピースのように、私の太腿のかなり上の方を申し訳程度に隠していた。

 しかし今そこからは、あのダミ声と、それに乗せられた私の右手によって、紫色の水着がチラリと見えている。

 言われるがまま、ただ無表情でTシャツを捲る私を、カメラマンはさらに煽る。

「う〜ん。いいよ〜。そ、もう少〜し。あ〜、いいね〜。うん。うん。あ〜、もう少し。おへその辺りまで上げてみようか?」

 こちらに注がれるカメラのファインダー越しの視線が気持ち悪くて、思わず顔を背ける。それでも、私の右手は、ダミ声の注文に応えて、さらに持ち上がる。

 早く終われと、ただひたすらにそれだけを思って、カメラの前に立つ私の気持ちは、ファインダー越しには見えないのか、何を勘違いしたのかオヤジカメラマンは、カメラを構えたまま身悶えた。

「おお! いいじゃん。その、恥じらいつつもアンニュイな感じ」

 なんだそれ? このオヤジには何が見えているんだ?

 よく、カメラを通して被写体の本質を見るなんて聞くけど、このオヤジは、私のことなんてまるで分かっていないじゃないか。

 そう思うと、なんだか腹立たしくなり、背けていた顔をオヤジカメラマンへと向けると、侮蔑を込めた鋭い視線を投げつけた。

 それなのに、やっぱりオヤジカメラマンには、私の気持ちなんて伝わらない。

「おお! いいね〜。その挑発的な視線、堪らないね〜」

 何枚ものシャッター音の中に、そんな言葉を織り交ぜて、一頻りシャッターを切ると、満足したのか、その日の撮影は終了した。

「はい! お疲れ〜。桜ちゃん、良かったよ〜。特に最後の目線。僕、痺れちゃったよ〜」
「え〜。ホントですかぁ〜。ありがとうございますぅ〜。じゃ、お先に失礼しまーす」

 営業用に声をワントーン上げつつも、感情はそこにはなく、オヤジの顔も見ずに、私はそそくさとその場を後にした。

 撮影スタジオを出ると、すぐにマネージャーの佐藤が後を追ってくるのがわかった。背後に付いた気配を感じて、私は不満を漏らす。

「もう、何なの。あのオヤジ。マジでキモイんだけど!」
「そんな事言うなって。どこで誰が聞いてるか分からないんだから。せめて、あともう少し、楽屋まで我慢してくれよ」
「こっちは、散々我慢したのよ。あのキモイ視線をっ!!!」