この家での生活も慣れてきた。そう思えたのは父、そして特に繭さんのおかげ。まだ母さんと呼ぶのは難しいけどどんどん仲良くなれたら嬉しいと心から思う。そして普通の家族のように楽しくやっていきたい。いや、やっていける気がする!なんて思っていたが
「邪魔。」
「うわぁ!」
突然後ろから聞こえた声に思わず驚いて叫んでしまった。どうやら先程から彼女は僕のせいで進めず詰まってしまっていたらしい。
「ごめん!」
「......。」
すぐに謝ったつもりだったが彼女は気にしないかのようにそそくさとリビングの方へ行ってしまった。どうにも僕は嫌われてしまっているのか彼女と一向に仲良く話せない。もはや避けられている気すらしてくるほどだ。
「どうすれば仲良くなれるのかなぁ...。」
なんて一人でぼやいてしまうほどだ。我ながら気持ち悪いほどに考えている。すると
「兄ちゃんどうしたの?」
と陽菜からも心配そうな声が届いた。だがすぐさま
「なんでそんなとこで突っ立ってんの?」
と呆れたような声になっている。どうやら陽菜も僕の通せんぼの被害者らしい。
「考え事してたんだよ!」
「...もしかしてまたあの人のこと?」
と今度は不機嫌な声になる。なぜかはわからないが華ちゃんと陽菜は初めて会ったときからどことなくバチバチしたような険悪な雰囲気を感じるのだ。なぜかと聞いても「別に。」の一点張りで教えてもくれない。
「あの人ああゆう人なんでしょ?繭さんもそう言ってたし。なんでわざわざかまうようなことしてるの?あと通路に突っ立って考えるのはやめて。」
「なんでって言われても...家族になったんだし仲良くなりたいからだよ?」
と素直に思っていることを話すとまたもや
「ふうん...。」
と不機嫌そうな声。よくわからない。そういう年頃なのだろうか。と不思議に思っている間に陽菜は自室に戻っていってしまった。すると
「...どけて。」
と華ちゃんにまた言われてしまった。さっきよりも優しい言い方になっている気がするのは気のせいだろうか。
「...ごめん。」
と申し訳無さ過ぎてその時の僕はそんな言葉しか出なかった。すると
「...さっきから突っ立って何考えてんの。」
と初めてのまともな会話文が僕に対して発せられた。
「.........。」
一瞬驚きすぎて言葉が出なかったがそんな僕の変な反応に彼女の顔がどんどん険しくなっていくのがわかった。僕は焦って
「いや、どうやったら仲良くなれるかなと...。」
とバカ正直に答えてしまった。聞かれて包み隠さず言うバカがどこにいるんだよ!と思わず本当に考えていたことを発してしまい僕がまた焦っていると彼女は意外にも驚いた表情をして
「...え...。なんで...?」
と聞き返してきた。どうやら本当にわかっていないようだった。
「だって家族になったんだから仲良くなりたいと思ってさ。」
と僕は正直に気持ちを伝えた。そうして僕の気持ちを知ってもらうことで仲良くなれるかもしれないと考えたからだ。すると彼女は
「どうしてわざわざ仲良くなろうとするの?家族って言ったって結局は他人なのに。」
と冷たい表情をして言った。そんな返答が返ってくると予想しておらず、戸惑いを隠せないでいるとすかさず
「無理して仲良くなろうとしなくていいから。」
ともう一言残して部屋を出てしまった。どうやら地雷を踏んでしまったらしい。仲良くなれるかと思いきや最初のような、いや、むしろ最初よりも深い溝ができてしまったような気がした。
「......なんで...?」
そんな純粋な質問がポロッと口から出てきた。...僕は空気を読めないのか?それとも本当にバカなんだろうか...。それから自室に戻ってもずっと考え事をしていた。