「わあ...」
目の前にある普通の人からしたら普通の一軒家。今日からここに住むのかと考えただけで僕は胸がドキドキしてしまう。
「朝陽、陽菜、こっちだ。」
目の前にある景色に見とれていた僕に父が呆れたように声をかける。
「おいおいそんなんでどうする。今日から住むっていうのに。」
慌てて言い訳をする。
「一軒家なんて初めてだから変に緊張しちゃってるのかも。」
「それもそうか。」
と父は苦笑する。そう。何にせよ僕ら工藤家はずっとマンション暮らしだったのだ。両親が離婚してからも引っ越すことはなく、母親が出ていく形になったからだ。そんなマンション暮らし一家がなぜ一軒家の前にいるのかというと
「賢司さーん、荷物はあとどれくらいありそうー?」
「繭さん。もうおおかた片付いたところだよ。」
「そう!そしたら中に入ってしまいましょう!朝陽くんと陽菜ちゃんもおいでー!」
とてもありきたりではないが親の再婚が理由だ。新しく母親になる繭さんは父の仕事の取引先の相手だったそうでプライベートでも話すうちに意気投合したらしい。そりゃもちろん再婚の話を聞いたときは驚かなかった訳では無い。だが今まで育ててくれた父が幸せになるならと思い快諾したのだ。ただ僕には再婚にあたって二つ気がかりなことがある。それが
「..........。」
「陽菜?」
妹の陽菜だ。陽菜ももう小5とは言え知らない家でほぼ知らない人と暮らすのはストレスがたまってしまうし、なにより人見知りなのだ。
「華!挨拶しなさい!」
玄関から急に大きな声が聞こえ思いがけず体がビクッと震えてしまった
「..........。」
もう一つの気がかりなこと。それはさっきからそこに立っている無表情の女の子だ。サラサラで太陽を反射しているような髪の毛にスラッとした体。父によると僕と同い年の高校二年生だそうで繭さんの娘さんだそうだ。誕生日は一応僕のほうが早いらしい。だがその後、結局彼女は何も言わずそそくさと家の中に消えていってしまった。繭さんは困ったように
「もう。ごめんね愛想なくて...。」
と肩を落とす。そこですかさず父は
「いやいや、きっと緊張してしまったんだろう。陽菜と朝陽だって結構ガチガチだし。」
とフォローをし、少し凍りかけた空気が戻っていくのを感じた。
「..........。」
ふと陽菜の様子が変なことに気がついた。
「陽菜?どうした?」
「陽菜、あの人嫌い。」
父のフォローによって戻りかけた空気が完全に凍りついたような気がした。
「そうよねぇ。怖い顔してるものねぇ。ごめんね。あの子ったら...。」
すかさず再び優しいフォローが繭さんから入りその場の空気を温める。なんて優しい人なのだろうとほっこりしていると父も同じだったようで
「優しいなあ。」
と一言こぼしている。そんなところに惚れたのだろうかと考えているとふと口角が上がってしまっているのに気がついた。慌てて口角をもとに戻す。そんな色々なハプニングも落ち着き家の中に入ると部屋は全体的に統一されていてすごく清潔感があり快適そうだった。こんな家に住めるなんて!とまた胸がドキドキし始めた。
「じゃあ二人は同じ部屋でいいって聞いてたから、階段登って右手側の奥の部屋使ってね!物置だったからちょっとホコリ臭いかもしれないけど...。」
「いえいえ!全然大丈夫です!お気遣いありがとうございます!」
実際部屋を見てみると二人で過ごすにも十分な広さだった。マンションにいた頃よりも広く感じる。
部屋に行く際に手前の部屋の中を見てしまった。ドアが開いていたから。すると部屋の中にいた住民と目があってしまった。華ちゃんだった。少し散らかった部屋。その奥の方にあるベッドの上にヘッドフォン姿の彼女はいた。なにか話しかけようかとあたふたしているとそれに気づいたのか彼女は振り向き、
「何。」
と一言。まるで邪魔だ目障りだというかのように言われてしまった。
「あ、なんでも、ない、です...。」
僕は言葉が出なかった。それからの家の中の説明やらは全く頭に入らなかった。気がつくとずっと彼女のことを考えていた。
思えばこの会話がきみとの初めての会話だった。
僕は君とは仲良くなれないかもしれない。そんなことを思った日だった。また僕の人生を大きく変えた日でもあった。
目の前にある普通の人からしたら普通の一軒家。今日からここに住むのかと考えただけで僕は胸がドキドキしてしまう。
「朝陽、陽菜、こっちだ。」
目の前にある景色に見とれていた僕に父が呆れたように声をかける。
「おいおいそんなんでどうする。今日から住むっていうのに。」
慌てて言い訳をする。
「一軒家なんて初めてだから変に緊張しちゃってるのかも。」
「それもそうか。」
と父は苦笑する。そう。何にせよ僕ら工藤家はずっとマンション暮らしだったのだ。両親が離婚してからも引っ越すことはなく、母親が出ていく形になったからだ。そんなマンション暮らし一家がなぜ一軒家の前にいるのかというと
「賢司さーん、荷物はあとどれくらいありそうー?」
「繭さん。もうおおかた片付いたところだよ。」
「そう!そしたら中に入ってしまいましょう!朝陽くんと陽菜ちゃんもおいでー!」
とてもありきたりではないが親の再婚が理由だ。新しく母親になる繭さんは父の仕事の取引先の相手だったそうでプライベートでも話すうちに意気投合したらしい。そりゃもちろん再婚の話を聞いたときは驚かなかった訳では無い。だが今まで育ててくれた父が幸せになるならと思い快諾したのだ。ただ僕には再婚にあたって二つ気がかりなことがある。それが
「..........。」
「陽菜?」
妹の陽菜だ。陽菜ももう小5とは言え知らない家でほぼ知らない人と暮らすのはストレスがたまってしまうし、なにより人見知りなのだ。
「華!挨拶しなさい!」
玄関から急に大きな声が聞こえ思いがけず体がビクッと震えてしまった
「..........。」
もう一つの気がかりなこと。それはさっきからそこに立っている無表情の女の子だ。サラサラで太陽を反射しているような髪の毛にスラッとした体。父によると僕と同い年の高校二年生だそうで繭さんの娘さんだそうだ。誕生日は一応僕のほうが早いらしい。だがその後、結局彼女は何も言わずそそくさと家の中に消えていってしまった。繭さんは困ったように
「もう。ごめんね愛想なくて...。」
と肩を落とす。そこですかさず父は
「いやいや、きっと緊張してしまったんだろう。陽菜と朝陽だって結構ガチガチだし。」
とフォローをし、少し凍りかけた空気が戻っていくのを感じた。
「..........。」
ふと陽菜の様子が変なことに気がついた。
「陽菜?どうした?」
「陽菜、あの人嫌い。」
父のフォローによって戻りかけた空気が完全に凍りついたような気がした。
「そうよねぇ。怖い顔してるものねぇ。ごめんね。あの子ったら...。」
すかさず再び優しいフォローが繭さんから入りその場の空気を温める。なんて優しい人なのだろうとほっこりしていると父も同じだったようで
「優しいなあ。」
と一言こぼしている。そんなところに惚れたのだろうかと考えているとふと口角が上がってしまっているのに気がついた。慌てて口角をもとに戻す。そんな色々なハプニングも落ち着き家の中に入ると部屋は全体的に統一されていてすごく清潔感があり快適そうだった。こんな家に住めるなんて!とまた胸がドキドキし始めた。
「じゃあ二人は同じ部屋でいいって聞いてたから、階段登って右手側の奥の部屋使ってね!物置だったからちょっとホコリ臭いかもしれないけど...。」
「いえいえ!全然大丈夫です!お気遣いありがとうございます!」
実際部屋を見てみると二人で過ごすにも十分な広さだった。マンションにいた頃よりも広く感じる。
部屋に行く際に手前の部屋の中を見てしまった。ドアが開いていたから。すると部屋の中にいた住民と目があってしまった。華ちゃんだった。少し散らかった部屋。その奥の方にあるベッドの上にヘッドフォン姿の彼女はいた。なにか話しかけようかとあたふたしているとそれに気づいたのか彼女は振り向き、
「何。」
と一言。まるで邪魔だ目障りだというかのように言われてしまった。
「あ、なんでも、ない、です...。」
僕は言葉が出なかった。それからの家の中の説明やらは全く頭に入らなかった。気がつくとずっと彼女のことを考えていた。
思えばこの会話がきみとの初めての会話だった。
僕は君とは仲良くなれないかもしれない。そんなことを思った日だった。また僕の人生を大きく変えた日でもあった。