「本読むの早いね」

図書委員である片岡 菜月は図書館のカウンター席に座り、田口 航一から返却本を受け取りながら、前々から思っていたことが不意に言葉としてポロッと口をついて出ていた。

「えっ……」

突然、菜月に声をかけられて田口はびっくりした表情を浮かべ、声をもらした……。
それもそのはず菜月とは同じクラスメイトではあるが、図書館で本の貸出の手続きをする際にお互いに最低限の言葉を交わすだけだったからだ。
田口の表情から菜月はクラスメイトとはいえ、全く話をしたことない相手からなんの前触れもなく突然話しかけられたらびっくりするし、迷惑だったかな…と、心配になり、慌てて謝罪の言葉を口にした……。

「あっ、ご……ごめんね、突然……」
「い…や……」
「……前々から気になってたの。だって、田口くんこーんな分厚い本もすぐ読んじゃうんだもん! この本も確か……2日前に借りたよね?」
「……そ、うだけど……」

若干戸惑いながらも田口はきちんと返答し続けてくれた。

「ホント、すごいね」
「……す、ごい?」
「うん。本読むの早くて、すごいな〜って」
「そん、なこと……ないよ」
「そんなことある! 普段あまり本読まない私からから見たら、すごいって思うよ」

ニコッと菜月が笑うと田口も微かに微笑みを浮かべたーー……。