就職課で女性職員に事情を説明すると、大学に求人が来ていた会社のうち9割で募集が終わっていると言われた。残っている求人票を見せてもらったが、知らない会社ばかりだった。それでもなんとか良さそうなところを探そうとしたが、入りたいと思うようなところは見つからなかった。
 落ち込んでいると、「ちょっと待っててね」と言って奥の席に座る男性のところへ行った。何やら相談しているようだったが、しばらくしてその男性がわたしの前に座った。係長だと言った。改めて事情を説明すると、表情が険しくなった。
「今頃なに言ってるの。レコード会社しか頭になかったって?」
 いきなり語気強く責められた。
「みんな必死でやってるんだよ。どこでもいいから受けられるところは全部受けているんだよ。この業界に行きたい、この会社に入りたいなんて、そんな甘いことを言ってる場合じゃないだろう!」
 言葉のゲンコツが飛んできた。
「すみません」
 蚊の泣くような声しか出せなかった。自分の馬鹿さ加減に打ちのめされてうつむくしかなかった。しかし、そんな様子を可愛そうに思ったのか、〈んん〉と喉を鳴らしたあと、「東京で仕事がしたいんだね」と投げやりな口調で救いの手を差し伸べてきた。反射的に顔を上げて「はい。できれば」と(すが)ると、「探しておくから、明日来なさい」とぶっきらぼうな声を残して席を立った。
 わたしは重い心を引きずりながら家路についた。その日の夕食は大好物のハンバーグだったが、なんの味もしなかった。