透が、クーラーの効いていない自室ベッドに飛び込む。
 彼の頬に流れる雫にはあえて気づいていないふりをして、彼の背中に飛び乗る。
 部屋に静寂が流れてどれくらい経ったかわからないが、ふと透が体を起こした。
 結局、向日葵と出会ってから本は1冊しか読むことができなかった。というか、まだ読み切っていない。
 残りの十数ページを読み進め、最後のページをめくる。
 
『知ってる?向日葵の花言葉はね、“あなただけ見つめる”』

 この言葉で締めくくられていた本の上に、ぼたぼたといくつかの水滴が落ちた。
 流石に気づかないふりはできないので、今度はそっとしおくより慰めたほうがいいかなと思い透の頬を伝う涙を舐め取った。


 家の外から、「にゃー」という声が聞こえる。
 窓の外に目をやると、向日葵の首輪をつけたアッシュグレージュの毛並みが特徴的な猫が隣の家の塀からこちらを覗いていた。まるで鈴を転がしたような鳴き声だった。
 あまりにも悲しそうに鳴くから、透の代わりに、慰めるように「にゃー」と返事をしておいた。