「はは、確かにいい女ですよ、向日葵さんは」
「今日は素直だね?」
「俺はずっと素直です」

 おちゃらけたように笑う向日葵の笑顔が眩しい。本当に向日葵みたいな人だな、と透は思わず目を細めた。
 そう、透はずっと素直だった。
 隠し事だらけだったのは向日葵の方だ。

「俺、素直なんで全部言います。向日葵さんのことが好きです」

 向日葵の目をまっすぐ見据える透と、頬を赤く染めた向日葵。
 今までの透と向日葵の立ち位置が逆転したようだった。

「優しいとこも、明るいとこも、本物の向日葵みたいで。すごく好きです」
「ありがとう、でいいのかな」
「何度も困らせてしまってごめんなさい。でも、伝えないと絶対後悔すると思って」

 多分、来年の夏、彼女はこの場所には現れないのだろう。
 透は、きっと今日が向日葵と会える最後の日だということを感じ取っていた。
 
 彼女の返答に落胆したりすることなく、ただ微笑んでいた。
 全てわかった上で伝え、向日葵を困らせた透は少しの申し訳なさを感じたが、彼女も透に隠し事をしているのだからこれくらい許されるはずだ。
 
「さあ、もう帰りましょうか」
「…そうだね」

 時間は止まってくれない。
 あっという間に日は傾き、世界をオレンジ色に照らす。
 彼らはいつも通りの時間に河川敷で落ち合い、いつも通りの時間に別れを告げた。
 
「透くん!」

 歩き出した透の背中に向日葵が叫ぶ。
 透はすぐには振り返ることができなかった。
 今にも涙が溢れ落ちそうだったから。

「私の名前、向日葵っていうの」

 彼女の言葉の真意が掴めず、涙を拭って振り返った時、そこにはもう向日葵の姿はなかった。
 慌てて周りを見渡すが、彼女を見つけることができなかった。