「向日葵さんはいつまでこっちにいるんですか?」
「どれくらいかな、もう少しはいるよ。透くんはいつまで夏休み?」
「今週末です」
「えっ、もう夏休み終盤じゃない。どこか出かけたりしたらいいのに」

 目を見開いた向日葵に、透は少し顔を赤くさせて答える。
 透の顔の赤さは、きっとこの暑さだけが原因ではない。
 
「いや、もっと向日葵さんと話していたいので」

 向日葵は一瞬驚いたような素振りを見せたけれど、すぐにいつも通りの笑顔に戻った。
 
「嬉しいこと言ってくれるじゃん。じゃあいっぱいお話ししようね」

 自分の思いが上手く届いていなさそうな向日葵にもどかしさを覚えながら、透は曖昧に笑った。
 いや、きっと向日葵は彼の真意に気づいているのだろう。その上で気づいていないふりをしているのだ。
 それは透と向日葵の間にある年齢の壁が理由なのか、それとも———。

「あの、連絡先交換してくれませんか」

 透の頬はさっきよりも数倍は赤い。

「ごめんね」

 透が勇気を振り絞って口に出した願いは、あっさりと断られてしまった。
 俯いたまま、透は当たり前の疑問を投げかける。

「なんでですか」
「なんでも」
 
 チラリと向日葵の顔を盗み見ると、心底困ったように笑っていた。
 その表情からは、悪意もなにも感じられない。ひたすら困っているようだった。
 透はそれ以上なにも言えず、この気まずい空気を打ち消すべく違う話題を振った。
 向日葵の安心したような表情に、少し透の胸が痛んだようだった。


 今日も日が傾き始めた。 
 目が痛くなるほどの日光によって眩しく光っていた川もオレンジ色に染まっている。
 気温も日中よりだいぶ下がった。
 いつものように向日葵に別れを告げた透は、家までの道を歩き始める。彼の自転車はメンテナンスに出しているので、いつもの倍ほどの時間をかけて徒歩で帰る。
 
「ねえ、俺さ、向日葵さんのこと好きなんだよね」
「にゃー」

 ぽつりと溢した透の言葉に、「知ってるよ」というように返事をした。