玄関を開けると、カレーのいい匂いとクーラーで冷やされた冷気が透を包んだ。

「ただいま」
「あら、おかえり」

 ただいま、と母親に声をかけたのは何ヶ月ぶりか。絶賛反抗期中の透から声をかけられ、驚いた母は透への怒りも忘れて返事をした。
 階段を上がり透の部屋へ入る。
 蒸し暑い部屋にまた汗が滲むのを感じながら、透はクーラーをつけた。
 今日は向日葵という予想外の人物との出会いもあり、あまり本を読み進めることができなかった。
 夕飯の時間になるまで本を読むことにした透は、ベッドに寝転んでクーラーの稼働音を片耳に本を開いた。