「今は夏休み中?」
「はい」
「そっか。私も夏休みだから帰省してきたの」

 予想通り、向日葵は大学生だったようだ。
 そこから2人は、互いのことについて話し始めた。
 学校のこと、友人のこと、透と透の親のこと。
 話しているうちに2人は完全に打ち解けた。
 年齢の差はあるものの、それを感じさせない彼女の天真爛漫な性格は人見知り気味な透の心を溶かした。

「その猫、透くんが飼ってるの?」
「あ、そうです。俺にすごく懐いてて、いつも着いてくるんですよ」
「可愛いね」

 透が撫でると、少し誇らしげに胸をそらせた。

「もうこんな時間か。私、帰ってレポートの続きしなくちゃ」

 腕時計に視線を落とした向日葵が驚いたような声を上げる。
 
「本当だ、結構時間経ったんですね。俺も帰ろうかな」
「お母さんとあんま喧嘩しちゃダメだよ?」

 普段なら親との関係に口を出されると腹が立つが、向日葵からの言葉は不思議と透にすとんと馴染んだ。
 向日葵は小さく頷いた透に満足そうに笑うと、服についた砂を払いながら立ち上がる。
 
「じゃあね」

 軽く手を振って去っていく向日葵に手を振り返し、最近の透からは考えられないほど穏やかな気持ちで透も帰路に着いた。