足の裏が溶けてしまいそうなくらい暑い夏の日、今日も母親と激しい言い争いをした高橋透は本を片手に家を飛び出した。 
 わざとらしく乱雑に玄関の扉を閉め、高校の入学祝いで買ってもらった白いマウンテンバイクに跨って近道である裏道を少し進むと、大きな川が見えてくる。
 その川の河川敷に腰掛け、透は持っていた本の栞が挟まれたページを開く。
 河川敷といっても橋の影になっており、年々強くなっている日差しを遮れるこの場所は比較的涼しい。
 それでも透の額には汗が滲んでいるが、家では落ち着いて本を読むこともできず、わざわざ長い時間自転車を漕いで駅前のカフェやら図書館まで行くのは面倒くさい彼に取っては最高の場所なのだろう。
 ここまでくる途中に自販機で買った天然水が透の喉仏を上下させる。冷たい水が体に行き渡り少しは暑さがマシになったのか、透は一息ついてまた1ページめくった。