懐かしい夢路を追った。
これはまだアンズの年齢が片手で数えられる頃の話。
晴れていれば外で遊び、雨が降れば摂社で遊ぶ、そんな毎日に少し退屈だった。
どうして自分には親がいないのか、どうして自分はこの敷地から出てはいけないのか、当時のアンズはカタクリこそいるけれど、いつも何処かで孤独を感じていた。
そんなある日、その日も不貞腐れながら境内で遊んでいた。鞠をついたり、一人二役で人形を使って演劇遊びをしたり、カタクリに贈ろうと綺麗なお花を摘んだり、小石を積み上げてお城を作ってみたり、、、。
ギシギシギシと、心が軋む音に気付かないふりをして。
その時、不注意だったのか、先程積み上げた小石のお城を巻き込んで派手に転んでしまった。
擦り切れた手の平からは血が滲み、涙がボロボロ流れ出る。
でも、一番辛かったのは側に誰もいなかったということで、、、。
多分、限界だったのだ。
「うわぁぁっぁ!」
痛くて、我慢できなくて、誰かに見付けてほしくて、大きな声で泣いた。
痛い、痛い、痛い、どうしてこんなに痛いのに誰も気付いてくれないの?もう、ひとりぼっちは嫌なのに。
幼い子供の拙い語彙力では心の内側を上手く言葉に表すのは難しかったかもしれないけれど、撒き散らすように吐き出した言葉は全てアンズの本心であった。
 だから、届いたのかもしれない。
「アンズ!大丈夫か!?」
アンズの泣き声を聞きつけ、少し離れた場所で掃除をしていたカタクリが走ってくる。
「どうした?何処が痛い?」
「うっ、、、おっ、、、おてて」擦り切れた手の平をカタクリに見せる。
かなり慌てていたカタクリは擦り切れた手の平を見て、大事には至らなかったことに安堵(あんど)した。そしてアンズを抱き上げ、擦り切れた両手を洗う為、手水舎(ちょうずや)に連れて行った。
 カタクリは柄杓で水を(すく)い、「早く治りますように」と言いながら砂を洗い流した。
「ねぇ、カタクリ」
「ん?」
「なんでアンズはひとりぼっちなの?」
カタクリの羽織りを握り締めながら涙目で訴える。
「、、、オレもいるからアンズは一人じゃないよ」
「でも、えほんでは『ともだち』っていうのがいて、おこったりやさしくしてくれる『おかあさん』がいる、、、、ひとりじゃなかったらアンズ、こんなにさみしくなかった、、、」
 カタクリに言っても意味のないことを泣きながら何で何でと(わめ)く。カタクリだって、自分と同じなのに、、、、。
全てを吐露(とろ)し終えた後、カタクリはもう一度、アンズを抱き上げた。
「アンズ、寂しい思いをさせてすまない。だがオレはお前の側にずっといるから安心しろ」
 頭を撫でながらカタクリは言う。
「ほんと?」
「本当だ、約束しよう」
「じゃぁアンズもいっしょにいる!、、、やくそくだよ!」
「うん。約束だな」
そう言い合って、小指を絡めた。
あんなに大声で泣いていたのに、いつの間にか涙は消えていた。
 この頃だろうか。私がカタクリに対して恋心が芽生えたのは、、、、。