「、、、、ズ、、、、アンズ!!」
「!!」
 心配そうに揺れる黄金色の瞳で見られて、我に返った。
「ずっと呼んでも返事しないし、揺さぶっても上の空だったから、、、、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ!」
どうやらボーと、していたみたいだ。
「考え事か?」
「考え事、、、、なのかな?」
不思議なことに自分でも分からない。
 取り敢えず、「いただきます」お膳に乗った卵焼きを口に運ぶ。
「美味しい、、、、」
 何時もながら美味しい卵焼きを頬張っていると、頬杖をつきながらカタクリが声を出さずに笑った。
その表情はまるで親が子供を愛おしそうに見ている様だった。
「ねぇ、カタクリ」
「ん?」
「この神社って何の神様を祀っているの?」
不意に頭の中に現れた疑問だ。大した理由もないが、昔から気になっていたことだった。
月峰神(つきみねがみ)
カタクリは一瞬、表情が曇ったがすぐにポツリと呟いた。
『月峰神』は何の神様なのかな?
そんな考えを読み取ったのか「この山の地主神だ」と、出窓に座って竹格子が嵌められた窓の外を見ながらの返答。
「何か聞こえるの?」
「ん?あぁ、、、、」
 カタクリは耳が良いから、何か聞こえるのかも知れない。
「かつて、この山に土地を守る月峰神がいたという。その神は『懸けましくも(かしこ)き神』と呼ばれ、麓の村から深い信仰を集めていた。その村である日、人の身でありながら月峰神の声をキくことができる少女が現れた。その少女は神の御心を聞き受け、村に神託として授けて人々を導いた。故に村では、その神の子を『生き神』と呼び、月峰神と共に崇めたのだという」
 独り言のような話し方で、懐かしむように話すカタクリ。
「その少女はどうなったの?」
恐る恐る聞くと、ひと言。
「死んだ。子供を産んでそのまま、、、」
 その話をしている間、一度も私と目を合わせてくれなかった。
こんな顔をするカタクリは今まで見たことがない。
そんな時、どうしたら良いんだろう。