「かなり大きくなったな」
 「もうすぐ産まれてくれるなんて、、、早くこの子に会える日が待ち遠しいです」微笑みながら膨らんだお腹を撫でるマヨイ。
 「月峰様、この子は無事に産まれてきてくれるでしょうか?」
 「きっと、無事に産まれてくるよ」
 生まれたばかりの子はとても弱い。『七つまでは神のうち』という言葉があるように、七歳未満の子は何時も死と隣り合わせで、死んでいく子も珍しくはない。今は行なわれることが少なくなったが、昔はこの社で水子供養が行われることもあった。
 「、、、あの男は一度も来ていないな」
 マヨイが山に招かれてからかれこれ六ヶ月程が経ち、季節は冬になっていた。その間、一度も夫という男は社を訪れない。初めの方は普段落ち着いているマヨイでも、そわそわしながら男が来るのを待っていたが、今は「きっとあの人も忙しいから、、、」と自分に言い聞かせている。
神職は最近何も起こっていないから社を訪れない。恐らく腹にいる子供のことも知らないだろう。この調子だと儀式の日まで訪れなさそうだ。
 「月峰様」窓から外を見ていたマヨイが思い出したように言った。
 「もしも、私が役目を放棄し、山の外に出たとしたら、、、この山はどうなってしまうのですか?」
 「、、、、、、、」
 『生き神に選ばれし者の魂はいずれ、月峰神様に捧げられ、その御許で神になるのです。その使命が果たされなければ月峰神様は荒み、、、やがて山を地を、人を祟るでしょう。、、、どうか我々に正しき道を示し、この地を守る神とおなり下さい』マヨイが山に招かれた時、宮司が言っていた言葉。思い返しても反吐が出そうだ。
 「お前が気にすることではない」
 「、、、でも」
 どうしたら良いのか分からない瞳でオレを見る。「初めから何も知らなければ、選んだことにも捨てたことにも気付かなかったのでしょうか?」
目を伏せ、何処か遠くの方に目を向ける。
 「生まれた時から此処にいれたら良かった、、、」
 オレは何も言ってやることが出来なかった。ただ、マヨイを哀れみ、胸を痛ますことしか出来なかった。