実のところアンズは生まれてから一度も境内の外に出たことがない。
だから外の世界のことを殆ど知らない。
 カタクリはいつもアンズの側にいる。色んなことをアンズに教えてくれるが、彼も此処から出たことがないと言う。
ずっと一緒にいてくれた兄のような存在、それが恋へ変わるのは必然だったのだろう。
稀に神職の人が来るが、その時は隠れるかのように二人で摂社にいる。
 だからアンズは生まれて十五年間、彼以外の人物と話したことはないのだ。
『世の中には知らない方が良いことが沢山ある』
 どうしてそこまでする必要があるのか、アンズには分からなかったが、そこには彼なりの事情があるのだろう。

 世間から隔絶(かくぜつ)された、強固な(まゆ)に包まれた安楽園。
故にアンズはかなり狭い世界で育った訳だ。