朝日が眩しく、目が覚めた。昨日以上に気持ち良い気分だ。

 夏樹に気づかれる前に家を出ようと立ち上がった時、目の前のドアが開いた。急いで壁に手をかざし、家を出る。

「痛っ!」

 二階から落ちた衝撃が全身に巡る。触れた感覚を感じないなら痛みも感じないと勘違いした私が馬鹿だった。物凄く痛い。

 傷を負った足を引きずり、敷地外に出る。気づかれてないかと不安になって何度も振り返る。気づかれてないようで胸を撫で下ろした。



 今日も河川敷に向かう。
 真夏の日差しはたとえ朝でも強く差している。
 死んでも暑さは当たり前のように感じる。熱中症で二度目の死を迎えそうだ。

 涼しい場所で休みたくなって近くの駄菓子屋さんに向かう。小学校低学年の頃お金のない私たちは放課後にお菓子を求めて通っていた。

 古びた建物はここだけで軽く浮いてしまっている。それでもこの街の歴史を繋いでいる役割を果たしているから誰一人建て替えようとしなかった。

 中に入るととても涼しかった。吹き抜けているのに生ぬるい風を感じない。最高の場所だ。

 店の奥から店主のおばあちゃんが出てきた。幼い頃ずっと通っていたから本当のおばあちゃんのように思っている。今もあの頃と変わってない優しいおばあちゃんだ。

「おかえりなさい。渚ちゃん」

 おばあちゃんは私の目を見ていた。悟っている表情で。
 私の存在に気づいてくれたようで挨拶してくれた。おばあちゃんは私のことが見えるようだ。

「おばあちゃん…! 私のこと見えるの?」

 この世界で私のことが見えている人が二人もいたことが嬉しくてたまらなくなり、涙が溢れてきた。久々に流した涙は甘かった。

 おばあちゃんは笑顔で頷いてくれた。でも、その笑顔が懐かしくて気がついたら抱き締めていた。人肌が恋しかった私にとっておばあちゃんの温もりは一番のプレゼントだ。

「ずっと寂しかった。居場所が無くて。夏樹は私のことが見えるけど、私が死んでると気づいてないから」

「寂しかったのね…。今日からここに泊まっていきなさい。たくさん話しましょう」

 その言葉でより涙が溢れてきた。私に居場所ができた。

 私は泣き疲れてそのまま眠ってしまった。