「これからどこへ行こう」

 帰る場所がない。外で野宿するのはさすが嫌だ。

「夏樹の家に行くか」

 勝手に入るのは不法侵入になる。インターホンを鳴らしても夏樹しか気づいてくれないからお邪魔することは出来ない。これは犯罪だけどもう、いいんだ。

 自転車は置いてきてしまったから歩いて行くしかない。

 透けてきた手のひらを見て思う。もう時間がない。最期ぐらい楽しもうと。もう自由だから。

 すぐに着いてしまってどうやって侵入するか考える。入るとしたら夏樹の部屋だろう。

 暖かい光が漏れている夏樹の部屋。丁度庭に大きな梯子が置いてあって作戦を練る。

 二階の夏樹の部屋まで梯子を立てて上り、窓をノックする。それが一番確実だと思う。でも、死んでいることがバレるのは不都合だ。

 そもそも私は半分幽霊みたいなものだ。浮いて壁をすり抜けて部屋に入ることは出来ないのだろうか。

 ジャンプをして手を鳥のように広げる。目を瞑ったまま手をパタパタと動かす。
 飛べなかった。

「まだ幽霊じゃないのか……」

 若干のショックを受け、座り込む。もう一度夏樹の部屋を見てみると、電気が消えていた。

「もう寝ちゃったか」

 それならば体が壁を通り抜けられる可能性に賭けよう。出来なくても仕方がない。まだ、私がこの世に存在している証明だから。

 家の外壁に触れる。触った感覚はなく、手だけが壁の向こう側に通り抜けた。そのまま体ごと壁の向こうに抜ける。