長い間沈黙が流れる。気まずくて仕方がない。この状況をどうにかしたい。

「今日はここで何してたの?」

「本読んでた。夏休みになってからは毎日通っている」

 彼は私に本を見せてくれた。その本は最近出版された恋愛小説だった。買いたかったけど、その願いは叶わず、死んでしまった。

「いいな~。この本、買おうと思ってたんだよね」

「よかったら貸そうか? もう読み終わったし」

「いいの⁉ やったー!」
 
 嬉しすぎてはしゃいでしまった。変な目で見られているかもと心配を抱き、夏樹の方を見る。彼は満面の笑みを浮かべていた。

「そろそろ帰ろう。もう遅いから」

 いつの間にか周りは真っ暗になっていた。近くの時計塔を見ると、七時になっていた。

「あっという間にこんな時間。じゃあもう戻るね」

「じゃあな」

 彼は自転車に乗り込み、ペダルを踏もうとした。

「待って!」

 寂しくなってしまい、呼び止めてしまった。また、会いたいから。

「明日も、ここ集合ね! 明日本持ってきてよ! 待ってるから」

 私がそう言い残すと、彼は頷いてくれた。
 走り去ってゆく彼の背中に大きく手を振った。