真っ白い自転車のサドルは私にとっては低くて上手く漕げない。それでも必死に漕ぐ。私には時間がない。本当に、時間がない。

 爆速で漕いでも誰もこちらを見ない。私のことは誰にも見えていないようだ。自由だけど自由じゃない。何だか複雑な感情になる。

「ようやく着いた」

 時計を見てみると午後五時。家を出たのが午前十時だから七時間も外にいるようだ。いや、もう私は死んでいるから半分以上この世に存在していなかった。

 夏樹と一緒によく来た河川敷。川の音や草の揺れる音が懐かしい。

 太陽が沈み、赤く染まる空。それは五年前、ここで見た最後の景色にそっくりだった。

 周りを見渡しても人影が少ない。急いで夏樹を探しに行く。
 話せなくたっていい、私の姿が見えなくてもいいからただ会いたい。
 
 期待を込めて辺りを彷徨く。周りの建物は生まれ変わっているのに、ここだけは何も変わっていなかった。何故か自然に共通点を見出してしまった。

 歩いていると、特に思い出深いの場所に着いた。そこは川の上に架かる道路橋の下。

 ここなら夏樹のいるかもしれない。見渡してみると、思った通り、彼がいた。

 私は思いっきり走っていった。