河川敷の道路橋の下に夏樹は座っていた。今日は新しい本を読んでいる。かなり分厚く、難しそうだ。

「ごめん。遅くなちゃって」

「いや、おかげで本読み終わった」

 嘘つき。まだ読み終わっていないのに。きっと私に責任を与えないようにしてくれたんだよね。

「はい、昨日の約束通り持ってきたよ」

 私の手に本を乗せてくれた。その時少し触れた指の感覚に胸が高鳴った。

 夏樹の右隣に座り込む。切り替えの早い夏樹は本を読み始めている。でも、私はすぐに読む気にはなぜだかなれなかった。だから少し話をしてみようと思った。

「夏樹、覚えてる? 六年生の時家出したこと」

 問いかけるとすぐさま顔を上げた。同じように大切な記憶として残ってくれているのだろうか。