その後、勇者が鍵を持ってくると牢屋から出してくれることになった。

勇者が鍵穴に鍵を差し込もうとしていた時、ルーナは手を後ろに向けて何かを握っていた。

鍵が開いた瞬間、ルーナは走る姿勢を取り、勇者の顔めがけて、砂をかけます。

勇者は目に砂が入り、目を押さえながら、跪きながら痛がっています。

この砂はというと、牢屋の隅に落ちていた砂を見つけ、勇者と話しているのを間にかき集めていたのである。

ルーナは、急いで階段をかけ上がっていきます。

「い、痛い、待て、ローズ姫」

勇者は、痛がりながらも立ち上がりローズ姫[ルーナ]の後を追います。

「待て、ローズ姫、待つんだー」

勇者の声が遠くからこだましていて聞こえてきます。

ルーナがホッとしたのも束の間、後ろから勇者の足音が聞こえてくるではありませんか。

ルーナは、痛みが来て左肩を抑えます。

先の衝撃でさらに、左肩が痛んでしまったようです。

このままでは勇者に捕まってしまう。

そう考えたルーナは、 何とか勇者に追いつかれないようにするために物を倒したりして何とかギリギリのところを逃げていたのでした。

ルーナは願ったのでした。

(シャルル様早く助けに来てください…)

◆◇◆◇


その頃、 シャルルとエミリオは、ルーナが残した痕跡を見つけていた。

「シャルル見てくれ、これあの子がつけた跡じゃないか?」

エミリオは、✕印を見つけ、シャルルと共にその後を追っていた。

進んでいくと、地下に続く階段を見つけた二人。

誰かがいる可能性があるため慎重に音を立てず、階段を下りていく。

「牢屋があるぞ」

小さな声でエミリオがシャルルに言う。

しかしその牢屋には、ルーナの姿はなかった。

シャルルは、ふと地面を見ると暗闇に青く光る何かを見つける。

シャルルが近づいてみると、それはルーナに贈った、月の形を型どった青色のネックレスであった。

何らかの拍子で外れてしまったようである。

シャルルは、ネックレスを強く握りしめた。

その後、シャルルとエミリオは他の牢屋も見たがルーナを見つけることは出来なかった。

そして誰も人の気配を感じることが出来なかった。

階段を上り、先ほどの入り口の場所まで戻ってくる。

先ほど来た方向とは、別の壁を見てみると、うっすらとだか✕印を見つけることが出来た。

どうやら誰かがこの✕印に気付き消したのであろう。

シャルルとエミリオは、その✕印を辿っていく。

(今迎えに行くからね、もう少しの間待っていておくれ、そしてどうか無事でいてくれルーナ)

シャルルはルーナが無事であることを祈るのでした。


◇◆◇◆


その頃、ルーナは小さな物置の部屋に隠れていました。

ルーナがずっと疑問に思っていたことがありました。

(それにしても、何処を探しても城の関係者の人たちが見当たらないのかしら)

(一体城の人たちは何処にいるのだろうか?)

「何処にいるんだ。ローズ姫」

先ほどとは違い怖い声でローズ姫の名前を呼んでいる勇者の声が聞こえてきました。

ルーナは勇者が通りすぎるのを息を潜めて待っていました。

どうやら、勇者は遠く行ったようです。

ルーナは、ホッとして安心してしまい、壁に寄り掛かってしまいました。

ガタン。

その拍子に何かを落としてしまったようである。

すると、音を聞いたのか遠くから足音が聞こえる、もしかして勇者に見つかってしまったのだろうか? 

ルーナは口を手のひらで抑えて声を出さないようにしています。

「ここに居たのですね、ローズ姫」

しかしそれも空しく終わりルーナは、扉が開いた瞬間、勇者を押し退けて走り出しました。

逃げなければ、その一心で走り続けるルーナ。

ルーナは、城と城を繋ぐ通路に出ました。

しかし石畳の隙間に引っ掛かり転んでしまいました。

勇者に追い付かれてしまったルーナ。

勇者はマントを脱ぎ捨てると、ルーナを捕まえるため、ルーナの手首を強く握りました。

「ローズ姫、やっと捕まえました。さあ行きましょう」

それでも、ルーナは、何とかして逃げようと勇者を振り切ろうともがき続けます。

「嫌です、結婚などしたくありません。離してください」

「何故ですか?約束を破るのですか!絶対に離しはしませんよ!」

「離して、離して」

ルーナの振り払った手が勇者の顔に当たってしまいました。

「何故なんだ。ローズ、私を怒らせたな」 

勇者が大きな声で怒っていると、みるみるうちに勇者の顔が赤くなり、背中から羽が生え、大きなドラゴンになったのである。

「あぁ、ドラゴン」

ルーナは、後ろに後ずさりながら、自分を守るためにドラゴンに近くに落ちていた石を投げつけていきます。

しかしなかなか、ドラゴンに石が届きません。

何度も何度も投げると、一つの石がドラゴンに当たりました。

ドラゴンはそれに怒り、ルーナの服を咥えると、空に向かって飛び立ってしまいました。

ルーナは、振り落とされないようにどうにかしてドラゴンに捕まっていました。

◆◇◆◇


その頃、シャルルとエミリオはルーナの痕跡を頼りに追っていた。

すると、外から大きな生き物のような声が聞こえてくるではありませんか。

「「まさか」」

シャルルとエミリオは、外に急いで走っていきます。

すると、そこには赤い色のドラゴンが空を飛び回っているではありませんか。

そのドラゴンを見ると、口元に何かを咥えているのが見えます。

よく見ると、それはルーナではありませんか。

「ルーナ」

シャルルは大きな声でルーナの名前を叫びます。

しかし、ルーナにはシャルルの声が聞こえていないようである。

シャルルはどうにかしてドラゴンの気を引こうとするが、なかなか上手くいかない。

すると、エミリオが提案をしてきたのである。

「俺が、ドラゴンを引き付けるから、その間にあの子を助けてやってくれ」

「わかった、無理だけはするなよ」

「おう、行くぞ、シャルル」

「ああ、エミリオ」

エミリオが合図を出すと、シャルルは魔法を使い、壁を登っていきます。

ドラゴンが飛行を低くした瞬間、背中に飛び乗ると、魔法でドラゴンに攻撃をしていくシャルル。

ルーナも振り落とさせないように必死にしがみついていきます。

バン、バン。

シャルルの闘っている音がルーナにも伝わってくる。

エミリオもその仲間に加わります。

バン、バン。

突然ルーナから青色の光りが放たれたのでした。

その眩しすぎる青色の光を受けたドラゴンはみるみるうちに力を失い、どんどんに落ちていくではありませんか。

ルーナはドラゴンの口から離されてしまい、真っ逆さまに落ちていっていきます。

「ルーナ」

シャルルが大きな声でルーナの名前を叫びますが、ルーナはどうやら気を失ってしまっているようです。

シャルルは自分が今出せる最大の魔法で宙に浮くと、ルーナのもとまで急いで近づいていきます。

地面ギリギリのところでルーナを掴み、お姫様抱っこでルーナを抱き締めたシャルル。

シャルルは、ルーナを地面に優しく寝かせると、ドラゴンに最後の一撃を与えたのでした。

するとその攻撃が効いたのか、ドラゴンは灰になり消えていったのでした。

地面に横になっている、ルーナの側に戻るシャルル。

エミリオもルーナのもとにやって来ました。

「大丈夫なのか?この子は?」

エミリオがシャルルに尋ねました。

「眠っているだけだから、大丈夫だよ」

「そうか、よかった」

先ほどまで心配していたエミリオの顔は少し安心した表情に変わりました。

シャルルが、ルーナに回復魔法をかけていきます。

「これで少しは良くなると良いのだけれど……」

「そうだな」

「さあ、行こうか」

「おお」

シャルルが、ルーナを背負うと歩き出しました。

その後シャルルは、エミリオと共に城の中に戻り、王様に会うことにしたのでした。

何故かというと先ほどの使った魔法で、戻るための魔法の力が失くなってしまったのである。

ルーナは、シャルルによって顔が見えないように布を被っているため顔を知られる心配はありません。

しかし、城の中に人がおらず探していると、人の声が人気のない小さな小屋から聞こえてくる。

小さめといっても結構な大きさではあるが…

その扉を開けると、大勢の人がそこにいたのでした。

恐らく勇者によって閉じ込められていたのだろう。

そこには、王様もおり、そして姫もいるではないか。

姫の顔を見るとルーナにそっくりの顔をしているではないか。

シャルルとエミリオは、驚きを隠せない。

姫によると、人の流れに紛れ込んで、ここに隠れていたのだそう。

そうしたら、大勢の人がここにやってきて閉じ込められてしまったのだという。

シャルルは、事情を王様に伝えると、理解をしてくれ、そして戻るための力をくれたのでした。

王様にここに残らないかと言われたが、シャルルたちはいいました。

「僕達には、帰らないといけない場所がありますので」

「そうか。残念だ。では気をつけて帰ってくださいな」

「はい」

「おお」

シャルルとエミリオ、そしてルーナ。

シャルルが魔法を唱えると、辺りが光だしていきます。

次の瞬間、三人は本の世界から姿を消したのでした。

「行ってしまったの」

「そうでございますね、お父様」

王様、そして姫たちがシャルル達が帰ってしまったことを惜しむのでした。