あの日の突然の訪問以降、何度か教会を訪れてくださり、呼び方がアルジェントからシャルルという呼び方にしてほしいと言われてからシャルル様と呼ぶようになった。

最初は、慣れずにいたのだが呼ぶにつれて慣れ始めていた。

そして数週間後、シャルル様が再び教会にやってきた。

私を迎えに来る準備を終え、今日正式に迎えにきてくれたのである。

私は、その頃自分の部屋で荷造りをしていた。

小さなトランクに積めていく、あまり物を持っていないため、すぐに終わってしまった、トランクには隙間が沢山ある。

入っているのは、教会で貰った本が一冊、白色のワンピースが二着、パジャマが二着、靴下が二足、下着など、そして日記帳である。

その頃シャルルはというと、教会のシスターと里親になるための契約書を書いていていた。

「では説明は以上となります」

シスターはシャルルの前に紙を差し出す。

紙には、こう書かれていました。

【シャルル・アルジェントはルーナを里親として家族に向かえる条件を満たしたことを私ども教会は承諾します】

シャルルはその紙にサインを書いた。

シスターはその紙を受け取る。

「アルジェント様、これでルーナの里親として認められました。それでは今からルーナを呼んで参ります」

「ああ、頼んだよ」

「アルジェント様は、教会の入り口でお待ちになっていてください。ルーナを連れて参ります」

そういうと、シスターはシャルルに会釈をすると、その部屋を出ていった。

◆◇◆◇

ルーナは、最後にベッドを綺麗に整える。

ここで過ごすもの最後なのか、そう思いながら、今まで使っていた部屋を見渡すルーナ。

すると、シスターが部屋にやって来た。

「ルーナ、そろそろ準備はいいかしら?」

「はい、シスター」

ルーナはトランクを持つ。

「忘れ物はありませんか?」

シスターがルーナに聞いてきました。

「はい、大丈夫でございます」

そう告げると、ルーナは部屋の扉を閉めました。

ルーナのいなくなった部屋は静まりかえっていました。

教会の入り口まで向かうと、シャルルが立っていました。

近くには、馬車が停まっていました。

最後にルーナはシスターに会釈をしながら挨拶をします。

「今までありがとうございました」

「元気で暮らすのですよ」

私に唯一優しく接してくれたシスターに別れを告げるルーナ。

シャルルはいいました。

「行こうか」

「はい。参りましょうシャルル様」

手に持っていた、トランクをシャルル様が何も言わず持ってくれた。

その後、馬車に乗り込む時にシャルル様が手を差しの差し伸べてくれた。

馬車が動き出す、少しずつ教会が遠ざかっていく。

あれほどに出たいと願っていたけれど、離れてみると、少し寂しい気持ちが芽生えていた。

少し進むと、シャルルが口を開く。

「ルーナ、道中、寄りたい所があるのだけど、君が僕と家族になった記念に贈り物を贈りたいと思っているのだけど、どうだろう?」

「良いのですか?こんな私に贈り物なんて……」

「当たり前じゃないか、君はもう僕の家族になったのだから」

「はい、ありがとうございます」

シャルル様がくれる言葉でこんなに嬉しい気持ちになるなんて…

少しすると、見慣れた田舎の景色から、少しずつ景色が移り変わっていく。

馬車が止まった。

どうやら目的の場所に着いたようである。

馬車を下り、辺りを見渡すどうやら隣町までやって来たようだ。

目の前には古そうな洋服屋がルーナの目に入る。

ショーウィンドウには、きらびやかな洋服が飾られている。

「着いておいで」

シャルルに言われるまま、その洋服屋に入っていくルーナ。

沢山の服が並べられている、しかしシャルルはその服たちには見向きもせず奥へと進んでいく。

シャルル様は、奥にある扉をノックする。

すると、小窓が開き誰かと話している。

暗号のような言葉を話すとその扉が開かれる。

そこは、どうやらお店の裏側のようだ、少し歩くと、また扉が現れ、シャルルは、紋章のようなものを扉に当てると、その扉の鍵が開く。

そこ扉を開くと、見たこともない景色が広がっていた。

シャルルが振り返り言う。

「恐れることはない。着いておいで」

ルーナは、恐る恐るその扉の向こうに足を踏み入れるのでした。

扉を通ると、そこはどこかのお店のようで、そのお店からこの通りに出てきたようだ。

そこには通りには、お店が所畝ましと、並んでいる。

沢山の人々が行き交っており、歩いていると、見たことのない不思議なものが沢山売られている。

それに、ルーナが住んでいる世界では見慣れない服装ばかり着ている人を見かける。

「離れないようにね」

そういうと、シャルル様が手を握ってくる。

手を握られて、緊張してしまい、下を向いてしまう。

少し歩くと、人気のない洋服屋らしきお店の中に入る。

女性がおりシャルルはその人お店の店主と思われる人に話しかける。 

ルーナはその女性をシャルルの後ろの影からみる、容姿は、二十代後半くらいに見えて茶色の髪の毛を後ろで丸めて括っており綺麗目な感じなのだか、雰囲気は何だか怖そうに見えた。

「頼んでおいたものを頼むよ」

「かしこまりました。アルが人を連れてくるなんて、珍しいこともあるものなのですね」

「まあね、そういうときもあるよ」

「そうなのですか。少し時間をもらってもよろしいでしょうか?」

シャルルは、ルーナの方に身体を向ける。

「ルーナ、少し待っていてくれるかい、すぐ戻ってくるから。この人は、口は悪いけど、悪い人じゃないから。行ってくるね」

そういうと、シャルル様は、何処かに行ってしまいました。

ルーナは何をすればいいのか分からず、辺りを見渡す。

珍しい、見たことのないものばかりが並んでいる。

(これはなんだろう。鏡だろうか)

その商品を見ていると、突然女性店主がルーナに話しかけてきた。

「怖がらなくていいよ。アルとはどんな関係なの?」

ルーナは突然のことに困ってしまう。

どのようにして説明すれば良いのだろうか?

私たちの関係は家族です!とはさすがに初対面の人には言う勇気はルーナにはなく……

女性店主は、黙っている私をみかねたのか尋ねてくる。

「友達?知り合いとかかな?」

「はい。そうです」

そういうことに一様しておくことにした。

勢いよく、振り返ってしまい、髪の毛がずれて青色の瞳がみえてしまう。

それを見た女性店主。

「あんた、珍しい瞳の色をしているね」

その視線にたまらず下を向き、髪で瞳を隠した。

(またなのか。もうなんでこんなことに、早く戻ってきてシャルル様……)

その女性店主は何だかも申し訳なさそうに、奥に入っていった。

すると、入れ違いでシャルルが戻ってくる。

「怖いことはされなかったかい?」

下を向きながら、小さな声が言う。

「だ、大丈夫です」

「そう、僕の近くにおいで」

そういわれると、ルーナはシャルルの近くに寄っていきます。

しばらくすると、奥の方から女性店主が戻ってきて、シャルルに箱が渡され、それを受け取るとその店をあとにした。

「ルーナ行こうか」

「はい」

その通りと思われる所を歩き始めるとシャルルがルーナにいいました。

「何処か寄りたい店は見つかったかい?」

「あの、その前に質問なのですが、ここは何処なのですか?」

「ここは、ムーン横丁といって、色々な店が軒を連ねていて、ここに来れば何でも揃うと有名な場所なんだよ」

「そうなんですか。では、これはなんですか?」

ルーナは立ち止まると、店の入り口近くの棚の上に置かれていた懐中時計のようなものをシャルルに渡します。

「これは、時間を止めることができるものだよ」

「時間を止める?」

(どういうこと?シャルル様は何を言っているの?)

すると、シャルルは何かの言葉を唱えると、一瞬にして先ほどの洋服屋に戻っていて、先の懐中時計を開くと、先まで歩いていた人の動きが止まった。

私たち以外は誰も動いていないのである。

唖然としてしまう。

「この状況はどういうことですか?」

するとシャルルは、いいました。

「魔法だよ」

「ま・ほ・う?」

(どういうことなの?脳が追い付いていかない)

「これは、魔道具で、開くと時間を止めることが出来る」

「時間を…止める?」

「そして、僕は魔法使いなんだ」

「まほうつかい?」

次々にシャルルの口から出てくる不思議な言葉たちにルーナは戸惑いを隠せない。

「そう、魔法使い。先いた場所は、魔法界で、あそこにいた人々は皆、魔法使い。ここは人間界だから、魔法が簡単に効くというわけ」

(私の聞いた話だと魔法使いはすでに全滅してしまったと言う話を聞いたことがある。まだ魔法使いがいたということなの?)

「怖いかいルーナ?」

シャルルはルーナにそう尋ねました。

ルーナは頭を自分なりに整理していく。

「いいえ、怖くありません」

何故なのか分からないが、彼の言葉ならすんなりと信じられた。

「そう。よかった、僕は君に拒絶されるんじゃないかと思っていたんだ」

「拒絶なんてしません。だって貴方は、私を孤独から救ってくれた大切な人だから」

「嬉しい言葉を言ってくれるだね。それなら……」

そういうと、みるみるうちに、シャルル様の姿が若くなっていく。

先まで三十代後半くらいの姿だったはずなのに、魔法が溶けて二十代前半くらいに変わっていく。

「ルーナ、これが僕の本当の姿だよ。実は、魔法で年を取っていたんだ」

その容姿は、手足が長く、顔が小さく、綺麗な金髪の美しい青年だった。

今、この世界中の時間が止まっていて、私とシャルル様の二人きりしかこの世界にいないように思えてしまう。

そんな気持ちにされてしまう。

彼の名前は、シャルル。

彼は、今日から私の主になる人である。