いつもと変わらないある日の朝のことでした。

ルーナの部屋にはシャルルの姿がありました。

シャルルはベッドで眠るルーナの寝顔を見詰めていました。

シャルルはルーナが眠るベッドの近くによるとルーナの髪を優しく触れました。

すると、ルーナは顔に手を触れると寝返りを打ったのでした。

その頃、ルーナは夢を見ていたのでした。

優しそうな顔でルーナのことを見ている綺麗な顔の女性がいる。

「ルーナ、大切な……わた………早く大きくなるのよ」

言葉が途切れて聞こえて上手く聞き取れない。

一体この女性は誰なのだろうか?

そして何を言っているのだろうか。

場面が移り変わった。

窓から小さな花壇が見えた。

「綺麗に咲いているわね。ルーナ」

優しく微笑んでくれているのがルーナにも伝わってくる。

またあの女性である。

また、場面が移り変わる。

まるで、ページをめくるかのように移り変わって行く。

若い男性がルーナを見ている。

優しく、ルーナの頭を撫でてくれているようだ。

「大きく育つんだよ。ルーナ」

男性も優しく微笑んでいる。

また、場面が移り変わる。

「だ、駄目よ。連れていかないで……」

最初の場面に出てきた、女性が大きな声で泣きながら懇願している。

最初の場面は心のなかが暖かくなる感じが伝わってきたのだが、今は心のなかが暗く怖い感じが伝わってくるのである。

大勢の黒いローブを着た人々が、その女性のことを見ている。

ここは、何処なのだろうか?

女性は、何故泣いているのだろうか?

すると突然、黒い暗闇の渦に吸い込まれていく感覚に襲われるルーナ。

「ハァ」

ルーナは、飛び起きる。

額や服に汗をびっしょりかいている。

あの夢は、何だったの?

もしかして、私が昔見た場面の記憶なのだろうか?

もしかしてあの女性は……

「おかあ………?」

「ルーナ」

いつの間にか、シャルルが部屋にいる。

ルーナはシャルルが部屋に居たことに驚きを隠せなかった。

「シ、シャルル様、どうしてここに?」

「驚かせてしまってすまないね。ルーナ」

シャルルは少し悲しそうにルーナにいいました。

「いえ、大丈夫ですよ」

「すまないね」

シャルルはもう一度、ルーナに謝りました。

「え、なぜまた謝られるのですか。シャル……」

シャルルはルーナが言葉を言い終わる前に、ルーナに魔法をかけ先ほどまでルーナがみていた夢の出来事の記憶を消してしまいました。

すると、ルーナは気を失ってベッドに倒れた。

「まだあと少しだけ、知らないままでいてくれ」

シャルルは、下を向きながら呟きました。

ルーナは、まだ知らなかったのです。

シャルルから伝わってくる、重く暗い影の正体を……

◇◆◇◆

ルーナは、再び目を覚ます。

「ルーナ、おはよう」

そこには、シャルルがベッドの近くに立っているではありませんか。

ルーナは少し驚きましたが、身体を起こすとまだ眠気の残るなかシャルルに挨拶をしました。

「シャルル様、おはようございます。朝早くにどうされたのですか?」

「おはようルーナ。今日は久しぶりに遠くにお出掛けしようと思って今ちょうどルーナを起こしにきたんだよ」

「そうだったのですね。おでかけですか!何処に行くのですか?」

ルーナはまだ少し残っていた眠気も忘れるほどに嬉しくて思わずベッドの上で扉跳ねてしまう。

ルーナは我に返ると少し落ち着きを取り戻す。

「すみません、シャルル様」

「いや、いいんだよ。それほど楽しみなんだね。場所は着いてからのお楽しみだよ」

「教えてくださらないのですか?」

「秘密だよ。その方が楽しみが増えるだろう?」

「分かりました。何処に行くか楽しみにしておりますね」

「じゃあルーナ、一時間後に書斎で集まろう。それまでに準備を終えておくように」

「分かりました、シャルル様」

ルーナはベッドから下りると、支度を始めました。

「シャルル様、いつまでこの部屋におられるのですか?準備が出来ませんよ」

「すまない。すぐに出るよ」

そういうと、シャルル様は足早に部屋を出ていくのでした。

扉を閉じると、シャルルは振り返り扉に手を当てました。

少しの間そうしていると、一度深呼吸をするとシャルルは扉から手を離し歩き始めるのでした。

◆◇◆◇

ルーナは、パジャマからラフな服に着替えると急いで部屋から出ていきました。

リリーとリナーの部屋がある一階に下りていきます。

扉をノックするとリリーさんが立っていました。

リリーがルーナに尋ねました。

「どうなされましたか?ルーナ様」

ルーナは突然お出掛けにすることになったことを話すと、リリーと共に自分の部屋に戻ってきました。

そして今ルーナはとても悩んでいました。

「ねぇ、リリーさん、どんな服を持っていけば良いと思いますか?」

「ルーナ様ならなんでもお似合いになりますよ」

先ほどからメイドのリリーさんに旅行の荷造りを手伝ってもらっている。

「そんなことありませんよ。でもありがとうございます。リリーさん、やはり選んでください。こちらしょうか?それともこちらでしょうか?」

ルーナは、緑色のワンピースと淡い桃色のワンピースをリリーに見せます。

「私は、どちらもお似合いだと思いますが、こちらがよろしいかと思います」

リリーはそういうと、淡い桃色のワンピースを指しました。

「では、これを持っていきますね」

そうしてトランクに荷物を次々と詰めていくルーナとリリー。

荷造りが終わると、次はラフな服を着替え、髪の毛を整えてもらっていく。

ルーナは、青色のワンピースを着ています。

髪飾りは、蝶々の形をしたバレッタをつけました。

首にシャルルからもらった月の形のネックレスがしっかり着いているかルーナは、確かめると、立ち上がりを鏡の前で仕上がりを確認するのでした。

「素敵です。ルーナ様」

「そうですか?」

「ええ、とても」

ルーナはリリーの方に身体を向けるといいました。

「リリーさん、手伝ってくださりありがとうございます。お土産物も沢山買ってくるので楽しみにしていて下さいね」

「はい、楽しみにしておりますね。ルーナ様」

ルーナは部屋を出るとリリーと別れ、シャルルの待つ書斎に向かったのでした。

ルーナは、何処に行くのか考えながらを膨らませながら書斎の部屋の前までやって来たのでした。

書斎の扉をノックします。

すると、部屋の中からシャルル様の声がしました。

「はい、今開けるよ」

ガチャ。

シャルルが扉を開ける。

「ルーナ、準備はできたのだね?」

シャルルのドアノブを握っている手が止まる。

「どうしましたか?シャルル様」

ルーナは、不思議そうにシャルルの顔を見る。

「いいや、何でもないさ。さあ、部屋に入ってくれたまえ」

「失礼いたします」

普段はあまり入らないシャルル様の書斎の部屋。

立派なアンティークの机と椅子。

机の上には、羽の着いた万年筆と万年筆立てがあり、その横にはランプが置いてある。

その横には、本棚がある。

机の前には、一人用のソファが二脚ずつと、テーブルが置かれていた。

「エドモンドが呼びに来るまでゆっくりしているといい」

「はい、そうさせていただきます」

そういわれると、ルーナは一人用のソファに腰を下ろす。

数分後、扉のノックする音がする。

「シャルル坊っちゃま、馬車の準備が出来ました」

シャルルとルーナは部屋から出てから、階段を下り一階に下りると、リリーとリナーが玄関ホールで待っていた。

「シャルル様、ルーナ様、いってらっしゃいませ」

「いってまいります、リリーさん、リナーさん」

リリーがいいました。

「楽しんでいらしてください」

「はい」

今日は、執事のエドモンドさんも私たちのお世話をしてくれるため一緒に同行してくれることになったのである。

停まっている、馬車に乗り込む。

シャルルが一人で座り、ルーナ、エドモンドが二人横になって座る。

ルーナは、エドモンドの方に身体を向ける。

「エドモンドさん、今日からのおでかけよろしくお願いいたします」

「こちらこそお願いいたしますねルーナ様。ルーナ様にとって楽しいものに出来るよう精一杯努めさせていただきます」

「楽しみにしていますね、エドモンドさん」

エドモンドさんが嬉しそうに微笑んでくれている。

ルーナは、シャルルの方を見る。

「どうしたの、ルーナ」

それに気づいた、シャルルはルーナに尋ねる。

「シャルル様、やはり何処に行くか教えていただけないのですか?」

「もちろん、お楽しみだから言えないよ」

「そうでございますか」

ルーナは、教えてもらえず落胆してしまう。

それでも、馬車はどんどん進んでいきます。

一体何処に連れて行ってくれるのだろうか?

馬車は一度休憩のためにある小さな街に寄ると再びシャルルたちは馬車に乗り込みました。

馬車が進むとルーナは、窓の外の景色をずっと見ていました。

見慣れない景色。

ルーナは胸の高鳴りが止まらない。

随分長いこと馬車は進んでいたのですが、突然馬車が止まり、シャルル、ルーナ、エドモンドは馬車から降りました。

ようやく目的の場所に到着したのです。

そこは、湖がありその近くには建物が立っていました。

遠くから見える建物は、とても立派に作られているように見えました。

「シャルル様、あの建物は、何でございますか?」

シャルルは、ルーナの質問に答える。

「あの建物は、僕の別荘だよ」

「別荘でございますか?」

「そう。今日から五日間、僕たちは、この建物に泊まるんだよ」

ルーナたちは、歩いて別荘の入り口までやってきました。

ルーナは別荘の部屋の中がどうなっているのかワクワクする気持ちを抑えつつ、エドモンドが別荘の鍵を開けてくれると、ルーナはその中に入りました。

屋敷ほどの大きさはないが、リビングとキッチンは繋がっていて、リビングには暖炉があり、キッチンは、簡単なものなら作ることが出来るほどの大きさがある。

そして、一階には一つベッドが置かれている部屋と洗面台の部屋などがある。

どうやら二階もあるようで、ルーナは二階に繋がる階段を上っていく。

二階には、部屋が四つあり、一つの部屋には、ベッドが置かれており、もう一つの部屋は、談話室になっていた。

もう一つの部屋は、シャルル様が見せてくれなかったのである。

残念に思いながらも最後にルーナが開けた部屋は、少し広い作りの部屋であり、ベッドが置かれていた。

シャルルの声が後ろから聞こえてきた。

「どうだい。ここがルーナが使う部屋だよ」

屋敷の自分の部屋とは雰囲気や家具が違い、この部屋も良いと感じるルーナ。

「素敵でございます。シャルル様」

「それはよかったよ」

今日から楽しい五日間の旅になることを願うルーナなのでした。