数日後、ルーナは魔法界のムーン横丁にあるエミリオ書店に来ていました。

シャルル様はというと、魔法界で用事あるようで私が無理を言って連れてきてもらったためエミリオさんに私の事を見てもらうように頼んでくれたのである。

エミリオさんはというと、今はお客さんの接客をしている。

ルーナは、エミリオの迷惑にならないように書店の奥の小さな部屋で本を読んでいた。

「この本も面白いわ」

ルーナは呟きました。

二つの世界の本を読むようになって思うことがある、魔法界の本の物語の内容と人間界の本の物語の内容は少し異なっており、魔法界にしか存在しないようなそんな生き物やものなどが登場してくる物語が多く、それぞれの良さがあって楽しめるのである。

始めての奥の部屋まで来るので、なんだか新鮮な気持ちである。

もうすぐで昼になる時間だろうか。

すると、突然カーテンが開かれるとエミリオさんが顔を出した。

「ルーナ、休憩の時間にしよう。お腹がすいただろう。何か食べよう。何が食べたい?」

ルーナは、エミリオにいいました。

「エミリオさんが、好きな料理を食べたいでございます」

エミリオは少し悩んだ表情をみせました。

「あれにしよう」

エミリオは、それだけ言うともう一つの部屋の扉を開けました。

ルーナはエミリオの後に着いていきました。

部屋のなかを覗いてみると、小さなキッチンと食事をするための小さなテーブルと椅子が置いてありました。

エリオットさんは材料を用意すると早速、下準備をしていました。

ルーナはエミリオに尋ねました。

「エミリオさんは、お料理を作るのが好きなのですか?」

「そこまでではないけれど、自分が食べれるくらいの料理くらいは作れるぞ」

「そうですか」

ルーナはエミリオの料理をしている様子を眺めている。

どんな料理をエミリオさんは作っているのだろうか?

とても楽しみになってきたルーナ。

何やらエミリオさんは、ミンチにしたお肉と芋を使って作る料理を作ろうとしているようである。

ルーナは、エミリオの料理を作るのに迷惑になってはいけないと思い部屋を出ることにしました。

しばらく本を読みながら待っていると、もうキッチンの部屋の方からエミリオさんが、私の事を呼んでいます。

「ルーナ、料理が出来たぞ」

ルーナは、急いでキッチンの部屋に向かいます。

その部屋の中に入ると美味しそうな匂いが部屋を包んでいます。

テーブルには、パイのような料理が置いてありました。

ルーナは、椅子に座るとエミリオに尋ねました。

「この料理は何という名前の料理なのですか?」

エミリオはルーナの質問に答えました。

「この料理は、シェパーズパイといって肉と潰した芋を使って作るパイの料理だ」

「シェパーズパイ、始めて名前をきいた料理です」

「そうか。冷めないうちに食べてみろ」

「はい。いただます」

そういうと、ルーナはスプーンでそのパイ生地をすくってみると、熱そうな湯気が出てきました。

一口食べます。

「美味しいです」

「そうか、よかった……」

どこか懐かしさを覚えるそんな味がする料理である。

「何故エミリオさんは、この料理が好きなのですか?」

エミリオは少し恥ずかしそうにいいました。

「小さい頃、かあさんが良く作ってくれたんだ。だから俺にとって思い出の味なんだ」

「思い出の味ですか」

「ああ」

ルーナには、思いでの味というものがないためエミリオのことが羨ましく感じた。

その後は、ルーナもエミリオも黙々とシェパーズパイを食べていきます。

もう少しで食べ終わろうとしていた頃、突然書店の方から扉を叩く音が聞こえました。

「誰だ?」

エミリオは、不満そうな顔をしていいました。 

「ルーナ、そのまま食べていてくれ」

「はい」

そういうと、エミリオは立ち上がり書店の方に行ってしまいました。

書店の入り口に一人の男性が立っているのをエミリオは見つけました。

その男性は、黒いマントを羽織っていました。

エミリオは、何かを察知したのかルーナの存在を探知出来ないように魔法をかけました。

エミリオは書店の扉を開けると、その男性に話しかけました。

「すみません、今休憩の時間でして」

「そうですか。それはすみませんでした。実は、本を買いにきたのですがまた今度、寄ることにしますね」

「すみません、そうしてもらえると助かります」

「ところで一つお伺いしたいのですが、この書店に女の子を雇っていますか?」

エミリオは迷うことなく答えました。

「いや、雇っていないが、それがどうしたんだ」

「いえ、そうでしたか。私の勘違いでした。ではまた来ますね」

そういうと、男性は人並みの中に消えてしまいました。

エミリオは、扉を閉めました。

そして、書店の入り口の扉に今日の営業は終了することを伝える看板をつけました。

その時のルーナはというと、残りのパイを食べ終えていました。

書店の入り口からお客さんとエミリオの声を聞いていました。

ルーナはその会話を、耳を澄ませて聞いてみることにしました。

ルーナはその声を、何処かで聞いたことがある声でした。

しかし、思い出せないのです。

でも確かにルーナはその声に聞き覚えがあったのです。

しばらくするとエミリオが接客を終えて戻ってきました。

「おお、食べ終わったか」

エミリオも椅子に座ると残りのパイを食べてしまいます。

ルーナは、エミリオに尋ねました。

「先の人は、誰だったのですか?」

「ただのお客さんだよ」

「そうですか」

何故か先ほどとは違うエミリオの様子にルーナは、不思議に思いました。

ですが、気分を悪くしてはいけないと思い何も言うことはしませんでした。

ルーナは、椅子から立ち上がるとエミリオにいいました。

「私が食器を洗います。料理を作っていただきましたので」

「そうか、頼んだ」

エミリオは、使った食器を洗い場まで持ってくると部屋を出ていきました。

ルーナは、食器を綺麗にしながら先ほどきいた声を何とか思い出そうとしていました。

あの冷たく冷静な声。

ルーナは、思い出したのです。

思わず拭いていた食器の手を止めました。

あの時、恐らく夢なのか現実なのか曖昧なあの出来事の時に聞いた声だったのです。

ルーナは、その声を必死に忘れようとしていたのですぐに思い出せなかったのです。

ルーナは、何故だかとても怖くなってしまいました。

あれは、夢ではなく現実に聞いた本当にあの声の人物がいたということに気づいたからです。

書店の入り口の扉が開きました。

「エミリオ、ルーナはどこにいるんだ?」

それは、シャルルの声でした。

「キッチンの部屋で食器を洗っているよ」

エミリオがシャルルにいうと、ルーナのいる部屋に向かいます。

シャルルがルーナの後ろ姿を見つけました。

シャルルはルーナの名前を呼びました。

「ルーナ」

ルーナは、シャルルの声を聞くと振り返りました。

そして小走りでシャルルの胸に飛び込みました。

シャルルは、ルーナの行動に驚いてしまいました。

「どうしたんだいルーナ」

ルーナは小さな声でいいました。

「シャルル様に会えて嬉しかったので……」

「そうか。ルーナ」

ですが、シャルルはルーナに何かあったことに気づいていました。

ルーナは嬉しくて胸に飛び込んでくれたはずなのに何故かルーナが震えていることに……

実は、先ほどエミリオから黒いマントを羽織っている人物の事を耳打ちで聞いていました。  

エミリオが言うにはその声は冷静で冷たく感じたといっていました。

そしてこんなことも言って何かを纏っているようで怖く感じたと……

「ルーナ、僕の方を見て」

ルーナはシャルルにそう言われると顔を上げました。

シャルルは、ルーナの瞳に問いかけます。

ルーナの心の声が聞こえてきました。

怖い、怖い、あの声の人物は誰なの?

夢ではなかったの?

シャルルはルーナの心の声を聞いて確信したのか魔法を唱えました。

次の瞬間、ルーナは気を失ってしまいました。

シャルルが魔法で記憶を消したからです。

その頃、屋敷に置いてあるルーナの書いた日記が書き換えられていきます。

エミリオがシャルルとルーナのいるキッチンの部屋にやって来ました。

ルーナはシャルルに体を預けるように立っていました。

エミリオはシャルルに尋ねました。

「記憶を消したの?」

シャルルはエミリオにいいました。

「そうだよ。僕は、ルーナには幸せでいてほしい。だからルーナが苦しんでいたからそれを取り除いてあげたいんだ」

「そうか」

シャルルは一呼吸するとエミリオにいいました。

「エミリオ、君にももうそろそろ本当の事を言わないといけない時がきたみたいだね」

その部屋だけが何故か静まり返ったようにエミリオは感じたのであった。

シャルルはエミリオに話す前にルーナを屋根裏部屋のエミリオが使っているベッドに横に寝かせました。

シャルルは、一階に下りると、エミリオはキッチンの部屋にある椅子に座っていました。

シャルルも椅子に座ると、話し始めました。

「今から話すことは、誰にも言ってはいけないよ」

いつの間にか、ムーン横丁に見える空が暗くなり始めてきていました。