クリスマスが終わり数日が経った。

もう少しで今年もあと僅かになっていた。

あの出来事から、シャルル様と会うたびに私はよそよそしく接してしまっている。

時間が経ったら、また元のように戻れると思う。

だから、もう少しだけ時間がほしいと思っている。

今はというと、日記帳を見返している。

今読み返しているのはこの屋敷に来て一ヶ月間の出来事が書かれている内容を読み返している。

『今日は、シャルル様にゴンドラに乗れる場所に連れてきていただいた。大きな舟で少し揺れたけれど楽しむことが出来た。また行きたいと感じる体験であった』

ページをめくる。

『今日は、大きな建物の場所にやってきた。美術館?という場所なのだそうだ。建物の中にはいると、絵画や銅像などが沢山展示されていてどれも作者の人が一生懸命作ったのが伝わってきて素敵だった。一枚の青色の花畑の絵が展示されている場所にいったその絵を見た瞬間心惹かれた。シャルル様も楽しんでいらして安心した』

『今日は屋敷の中庭でリリーさんが作ってくれたサンドイッチを食べた。これは、ピクニックというそうである。シャルル様も笑っている。天気も良くて良かった。次回は、一人でもピクニックをやってみたいと思う』

『今日は、初めて書庫で本を読みました。教会の図書室よりも沢山の本が棚に並べられていた。どの本を読もうか迷ってしまうほど、一日中書庫に居ても良いくらい素敵な場所である』

ルーナは、ページを遡り教会にいた頃まで遡る。

『今日は、図書室で本を読んで過ごした』

『いつになったらこの孤独から抜け出せるの』

『また、私の瞳のせいになった』

『こんな瞳、いらない』

『なぜ私の瞳は青色なの?』

『この場所に私の居場所はあるの?』

『抜け出したい』

『皆にみたいに緑色の瞳になりたい』

『誰か私を救いだして……』

あの頃のルーナの悲痛の叫びが日記に書かれている。

あの頃の私は、何もかも諦めるしかなかったのである。

普通になりたい、普通ということがどれだけ大変なことで素晴らしいことなのか体験した人にしか分かり合えないと思っている。

『今日は、教会に一人の男性がやってきた。私の里親になってくれるのだという。彼が私に『家族になりたい』と言ってくれた。初めてだったこんなに嬉しい言葉をくれる人に出会ったのは……
私は彼と家族になることを決めた。彼は、私を救ってくれた。神様のような存在である』

『シャルル・アルジェン、彼に出会えて本当によかったと心から思う』

この日を境に日記帳に書かれていく文字たちに変化が訪れる。

ルーナは、日記帳を閉じると窓の外をみると雪が降っていて、今夜は積もりそうな予感がする。

この屋敷に来て半年が過ぎようとしていた。



◇◆◇◆

十二月三十一日。

今日で今年が終わりを迎える。

その日もいつものようにルーナは、目覚める。

ルーナは、伸びをする。

「うーん、良く眠れた」

ベッドから起き上がる。

「今日で今年も終わりなのね」

リリーさんが朝の支度の手伝いに来てくれる。

アクセサリーケースからブレスレットを出すと手首につける。

今日は、青色と紫が混ざったようなワンピースを着ると、暖かい上着とマフラーと手袋を身につける。

ルーナは、部屋から出ると廊下を進んでいくと、一階に下りるために階段を下りると目的地の中庭に到着する。

外は、すっかり雪が積もり積もっている。

前から作ってみたいと思って物を作るためにやってきたのである。

それは何かというと、雪だるまである。

私が住んでいた田舎町は、積もるほど雪が降らなかった。

ルーナは、雪だるまの土台となる雪玉を作っていく。

「ヨイショ、ヨイショ」

どんどん雪玉が大きくなっていく。

後ろから足音が聞こえる、振り返るとそこには、シャルル様が立っていた。

「ルーナ、何を作っているんだい?」

「雪だるまというものを作っております」

「僕も一緒に手伝って良いかな?」

「もちろんでございます。シャルル様」

シャルルとルーナは、一緒に雪玉を押していく。

体の部分が出来ると、頭の部分も作っていく。

出来上がるとシャルルとルーナは、体の部分に頭の部分になる雪玉を乗せていく。

同じようにもう一体作る。

「出来上がりましたね。シャルル様」

「そうだね。ルーナ」

シャルルはルーナの方をみる。

「ルーナ、耳が真っ赤ではないか」

そういうと、シャルルはルーナの耳を手で覆う。

ルーナの顔が微かに赤くなっていく、雪の寒さなのか、はたまた違うことでなのか。

ルーナは咄嗟に思い付いたことを口に出す。

「私は、雪だるまの顔になるパーツがないか探して参ります」

シャルルがルーナの耳から手を離す。

ルーナは、足早に屋敷に戻っていく。

「ルーナ、走っては危ないよ」

シャルル様の声が後ろから聞こえてくる。

廊下を歩いていると、リナーさんが前から歩いてくる。

ルーナは、リナーのもとに近づくと、リナーに話しかける。

「リナーさん。こんにちは」

「ルーナ様、こんにちは。どうかなされましたか?」

「実は、雪だるまを作ったのですが、顔になるパーツがないかと思いまして…」

「でしたら……」

そのあとリナーさんは、クルミやニンジン、帽子のバケツまでくれた。

「ありがとうございます。リナーさん」

「いえ、では私はこれで失礼いたします」

急いで、シャルル様のもとに急いで中庭に戻る。

ルーナは、中庭に立っているシャルルの後ろを姿を見つめる。

その後ろ姿は、何故だかとても寂しそうにみえた。

ルーナは、自分でも気づかぬうちにシャルルの背中に向けて走っていっていた。

シャルル様の背中を抱きつく。

シャルル様は、驚いた表情を見せていた。

数秒、間が空いてシャルル様が口を開く。

「どうしたんだい。ルーナ」

「何でもございません。ただ、シャルル様が寒そうみえましたので温めようと思い………」

少しの間、二人はそのままでいた。

ルーナは、シャルルから離れる。

「シャルル様、持って参りました」

そのあと、シャルルとルーナは、雪だるまに顔にパーツをつけていく。

「さあ、屋敷の中に入ろう」

「はい、シャルル様」

二人が去った中庭には仲良く二体の雪だるまが並んでいた。

◆◇◆◇

外が暗くなり、夕食を済ませるとルーナは、談話室に向って廊下を進んでいく。

談話室に到着すると、窓の方まで歩いていく。

あと数時間で年が明けようとしている。

ルーナは、窓の外を眺めている。

廊下を誰かが歩いてくる。

誰かが談話室の扉が開ける。

「ここにいたのだね。ルーナ」

扉を開いたのは、シャルルであった。

ルーナは、シャルルの声がする後ろにほうを振り返る。

「シャルル様」

シャルルは、ルーナの隣に並ぶ。

「実は、エドモンドさんからこの部屋から良くみえるとお聞きましたので……」

そうなのである、遠くからではあるが、この場所から花火を見ることが出来るというわけなのである。

「そうなのだね」

シャルルとルーナは、残りの時間までソファに座って待つことにした。

「ルーナは、花火を見たことがあるのかい?」

「いいえ、見たことはありません。ですので、とても楽しみなのでございます」

シャルルは、ルーナの待ち遠しそうな顔を見て優しく微笑んでいる。

「そうだね。楽しみだね」

扉がノックされる。

「失礼いたします。お茶をお持ちしました」

リリーさんがお茶やお菓子をキッチンワゴンに乗せて持ってきてくれたのである。

ルーナは、立ち上がりリリーさんからトレイを受け取ると、運ぶのを手伝う。

「ありがとうございます。ルーナ様」

「いいえ、リリーさんこそ持ってきていただきありがとうございます」

二人は、仲良く準備をする。

リリーがテーブルにお茶を運んでくる。

ルーナは、茶菓子を運んでいく。

「どうぞ、シャルル様」

「ありがとう、リリー、ルーナ」

「いただきます。リリーさん」

シャルルとルーナは、ケーキを一口食べる。 

「美味しいです」

ルーナは、紅茶を一口飲む。

「紅茶と良く合います」

「喜んでいただき光栄でございます。では私はこれで失礼いたします」

リリーはキッチンワゴンを押して部屋を出ていく。

二人は、ゆっくりティータイムを楽しむ。

「美味しいですね。シャルル様」

「そうだね。ルーナ」

しばらくして二人は、茶菓子を食べ終える。

時間が刻々と過ぎていく。

ルーナは、暖炉の暖かさで眠気が襲ってくるのを必死に抑えている。

それを見ていたシャルル。

「ルーナ、眠たいのかい?」

「いえ、大丈夫でございます。あと数分の辛抱でございます」

ルーナは、何とか数分を耐え抜いた。

ルーナとシャルルは、立ち上がり窓の外を眺める。

遠くから時計塔から鐘がなっている。

次の瞬間、花火が数発あげられる。

最初は、音で驚きビックリしたものの上がってくる花火を見てルーナは思う。

「わーあ、綺麗ーー」

様々な色が混ざっていてとても綺麗である。

ルーナは、目を輝かせながら花火を見ている。

その様子をシャルルが横で見守っている。

それが終わると、ルーナはソファに座り、シャルルはしばらく外の景色を見ていた。

シャルルは、ルーナの座っているソファのほうをみると、ルーナが気持ち良さそうに眠っている。

シャルルは、ルーナの隣に座り、眠っているルーナに話しかける。

「明けましておめでとう、ルーナ」

その寝顔を愛おしそうにシャルルが眺めている。

いよいよ新しい年の幕開けである。